絶滅危惧種を自覚する

 「そのスマートフォン、どこで買いましたか?」
 「……??」
 「それ、そのスマホ(指さす)」
 「このケータイデンワ……ですか?」
 ベトナムの実習生たちは本国で、スマホのことを「ケータイデンワ」と習ったらしくて、機種はまぎれもなく「スマホ」だが、名詞がなかなか置き換わらない。
 授業ではスマホが辞書がわりなので、分厚い辞書など誰も持ち歩かなくなった。
 便利になったものだが、ぼくなどはやはり紙の辞書のほうが好きである。しかし、ペラペラとページをめくりながら語句をさがしていると、ついついスマホ辞書派におくれをとってしまい、生徒に「おそいね」といわれる。
 先日まで仕事で約一ヶ月、電車通勤した。職場が富山県なので、毎日往復2時間ちょい電車に乗った。
 新聞を買って車内で読むのが毎朝のルーティンとなったが、あるときぼくの他に新聞を開く音がしなかったので車内を見回すと、誰も新聞など読んでいなかった。
 寝ている人やぼんやり外をながめている人ももちろんいるが、スマホをいじっている人が圧倒的だった。老若男女問わずである。
 う〜む、完全なアウェーだ。新聞が売れなくなったのもうなずける。
 ある日、新聞を読んでいる人を見つけた。ぼくと同じオッサンだった。けど、なぜかあまりうれしくはなかった。
 しかし、多数派は寸暇を惜しんで、スマホの画面で何を見ているのだろうか。忙しいことである。
 イヤホンをつけている人も少なくない。何を聴いているのだろうか。外の音を遮断して、危険を感じないのだろうか。ま、忙しいことである。
 かように、車内は異様な光景にも思えるが、これは新聞オッサンの視点であって、スマホの人たちにとってはぼくの方が異様に映っているかもしれない。
 帰りの電車では本を読む。余力がないときは居眠りをするが、本を読む人も残念ながら絶滅危惧種のようである。(;O;)