体力強化作戦と落とし穴

 雪がない時期にときどき山歩きをしているが、近年はトシとともに体力低下が著しく、しばらく山から遠ざかるとそのうち駅舎の階段でさえ息切れするのではないか、と強迫観念にかられていた。
 これではいかん、まずは心肺機能だ、とわりと固い決意のもと去年からフィットネスジムのルームランナーで走りはじめた。
 とはいえ毎日通うこともできず、平均すれば週1という、まあやらないより少しマシという程度の頻度ではある。
 このルームランナー、最近ではジムの人気アイテムらしくて、僕が通っているジムでも20台以上は並んでいる。
 しかし、走っても周りの景色が変わらないのが残念だ。前方に見えるのは、いつまでたっても前列のマシンで走っている人の背中と尻である。もちろん、追いつくことも離れることもできない。
 なにも前列の中高年の貧弱な尻ばかり見る必要もないのだが、じつは目の前に設置されているモニターには、流れる風景のバーチャル映像が選べるようになっている。なかなかこしゃくな演出ではある。
 しかしなぜかそれは人気がなく、たいていの人はテレビを見ている。
 僕は走りながらテレビを見るという「ながら運動」に最初は慣れなくて、アドレナリンが出まくりになっているところにアベのたるんだ顔が出てきてあの独特な滑舌を聞かされたりすると、モニターを破壊したくなる衝動をおさえるのに苦労する。
 マシンは地面のほうが動くので、最初はそういうシチュエーションに慣れなかった。走り終わって機械から降りると三半規管がまだ混乱していて、酔っぱらいの千鳥足のように足もとがふらついた。
 それでもこの心肺機能強化作戦は、当初こそ500mほど走ると息があがってしまったが、週1とはいえしだいに距離も伸び、最近では時速7kmの設定で3kmぐらいは平気になってしまった。
 え? たいしたことはないって? ……まあ、そうだが。
 それで、実際の効果はというと、山でのスタミナが少しついた(ような)気がするのである。
 やっぱり心肺機能じゃわ。ははは〜。と思っていたら、最近突然左腕を痛めた。物を持ったりするときに、肘の周辺にじわ〜と痛みが走るのである。
 かかりつけの接骨医にいったら、テニスでもした? といわれた。右利きなので、それはないよ、と答えたが、まるで「テニスエルボー」のような症状だったのである。
 どうしてこうなったのか心当たりもなく、気がついたら痛かったのだ。
 心肺機能を鍛えればすべて解決、と思っていた自分は、どこかで年齢を忘れていたようである。ちぇ。(..;)
(photo:まるで生き物のような倒木。東大台にて)