大国の食

 「中華料理」というと、たいていの日本人はある一定の料理の名前と味を思い浮かべてしまうだろう。
 しかし、来日している中国人にいわせると、日本で食べる「中華料理」は中国の料理じゃない、という。
 まさにそれは当然である。彼らにとっての「中華料理」は、それぞれの故郷の料理のことであり、広大な中国のこと、いわずもがなの千差万別なのである。
 もちろん、日本の「中華料理」がマズイといっているわけではなく、むしろおいしいという評価の声は多い。
 食べ物の話しは盛りあがるので、中国人学習者と雑談することもけっこうあるが、彼らが日常つくる料理は、日本人が抱く中華料理のイメージとやはり少しちがう。
 外国人が、日本料理といえば、寿司・刺身・天ぷら・すきやき……などと答えるように、それだけが日本料理じゃない、ということと同じである。
 ときどき、先生は料理をするのか? ときかれる。
 「そうだなぁ。たとえば麻婆豆腐、青椒肉絲……」と答えはじめると、彼らはすぐさまあとを引きとって、「回鍋肉、担々麺……」、と笑いながら代わりに答えてくれるのである。
 もちろんさほどレパートリーはないし、正式な料理名をあたえていいシロモノでもない。ただ中華風に味付けした料理を、思いつくままにつくっているにすぎない。
 しかし見事に、四川料理の方向にシフトしていることにはまちがいない。そのことに、あらためて気がついた。日本のポピュラーな中華料理には、そっち方面のものが多いからだろう。
 とはいえ、あくまでそれは「四川風」、ということである。中国で四川料理を食べたこともあるが、日本のそれとはかなりちがっていた。もっとも、四川省で食べたわけではないので、それとてまた本場物とはちがうかもしれないがーー。
 有名な料理には、伝統的な定番調理法というものがあることだろう。それは大事なことにはちがいない。
 しかし、料理名はたんなる「記号」である。たとえば諸外国では、ときどき面妖な「寿司」を目にする。
 ーーまあそんなわけで、学習者に中国人が多いせいか、中国の正月(春節=2月10日)を目前にして、ふと、準備に余念がない彼の国の食卓を想像するのである。
 外国にいても中国人にとって、春節は一大イベントである。もちろん今週の授業は、それどころじゃない、のである。(^_^)
(photo:食……材。厦門にて)