猫と暮らす(3)

 子猫は栄養失調でガリガリに痩せ、さわると骨格が毛皮を着ているかのようだった。はっきりした月齢はわからなかったが、獣医は生後1カ月ぐらいと判断した。
 目は両目とも深刻な状況で、近所の獣医から県内の専門医を紹介された。どうも猫や犬の目の病気というのは、かれらにとってかなりポピュラーな疾患のようである。
 専門医では目薬と飲み薬があたえられた。投薬は、世話する人間側に根気を強いるものなので、さらに負担が増した。しかも、塞いだままの目が回復する保障はなかった。
 それでも「ソラ」は少しずつ元気になって、痩せこけてキツネのような顔をしていたものが、いくぶん猫らしい顔立ちになってきた。400gでやってきた体重は、いつのまにか500gになっていた。
 しばらくすると段ボール箱のなかで動けるようになり、しまいには段ボールの壁の上に前足をかけるようなった。しかし動作はまだ緩慢で目も見えないので、力尽きて箱のなかにひっくりかえるのである。
 とはいえ段ボールから出てくるのは時間の問題なので、あまり気は進まないが、猫用ケージも検討しはじめた。
 1カ月ぐらい経ったころ、右目を手術することにした。獣医がいう専門的なくわしいことはよく理解できなかったが、放っておくと失明するということはわかった。
 手術をして右目を塞いだ。エリザベスカラーを首に巻かれたソラは、麻酔が覚め家に帰るとあばれまくった。
 異物が装着されたのだから、その気持ちはわかる。しかし、あばれるほど元気になったともいえるのである。
 ソラがやってきてから、にわかに家は活気づいた。娘夫婦はひんぱんに顔を出すようになったし、小学校に通うようになってからはめったに来なくなった姪っ子たちが、週を置かず珍しい飼い猫を見に来るようになった。
 さらには、成人した猫好きの甥っ子や大人たちの恰好な話題の主となった。ソラは人寄せパンダならぬ、招き猫化していった。まあ、金運には効用がなかったけれど……。(^_^;