猫と暮らす(2)

 やってきた子猫(オス猫だった)は、いろいろな問題をかかえていた。
 深刻なのは病気だ。ヘルペス菌に全身が冒され、臓器の機能が弱まっていた。しかも、目が塞がっている。もちろん皮膚や毛は、ノミ、シラミの恰好な住み家となっていた。
 近所の獣医の指導のもとに、スポイドのような注射器で猫用のミルクをあたえるが、なかなか飲もうとしない。しかも、ある程度の規定量を2時間おきにやれ、という。
 ふってわいたような介護である。しかも相手は見ず知らずのノラ猫だ。娘の気持ちもわかるが、もっとよく考えて行動しろよ、といいたくなる。
 獣医は、今晩がヤマかもしれない、といった。そのことば通り、これから回復するような状態には見えなかった。
 しかし、割いた新聞を敷き詰めてクッションにした、小さな段ボール箱の隅にうずくまって伏せている小さな命を見ていると、なんとか助けてやりたいと思った。
 その晩ぼくは寝てしまったが、連れ合いは獣医のいいつけ通り猫のそばをはなれなかった。
 なんとかミルクを飲ませた、それが「命の水」になったのか、猫は朝を迎えた。しかし、状況が好転したのかはわからなかった。
 猫の生命力か、人間の熱意(愛?)が通じたのか、その後少しずつ回復していった。ときには熱を出したりして、まったく3日と置かず医者通いをしていたように思う。
 ぼくは仕事で日中はいないので、連れ合いが献身的な介護をしていた。その姿に感心していたが、ふと自分に引き合わせてみると、若干複雑な思いも……。
 娘夫婦も責任上、休みの度にやってきた。日常の世話はできないので、ヘルパーのようなものだったけれど、子猫にかかわる費用は全額負担するというのでその点だけでも助かったし、彼らなりの決意を感じた。
 とにかく、人間とちがって健康保険がないので、医療費がストレートだ。ある試算によれば、猫1匹年間平均10万円かかるという(寿命15年として)。
 まあ、費用対効果を考えれば安いものかもしれないが、それでも後に栄養食として1缶400円もする猫缶を食べる我が家の猫を見ていると、酒のつまみに100円のサンマ缶を食べる自分とつい比較してしまう。
 死線を脱した子猫は、少しずつ元気になっていった。
 「ソラ」というなまえにした。(^_^;)