利尻島脱出行

 おとといまで利尻島にいた。ちょうど台風の影響による豪雨の最中である。島では50年に一度の雨だ、といわれたあのときだ。
 9月6日は朝から雨が降りつづいていた。というより、前の晩からすでにけっこう降っていた。
 ホテルの中に居るぶんには、外の状況はあまりわからない。なにせ冬になれば極寒の地ゆえ、建物の気密性はかなり考慮されている。
 15:35の「利尻→札幌丘珠」HAC便(北海道エアーコミューター)で島を離れる予定だった。朝、念のためネットで運行状況を確認したが、この便に不穏な情報はなかった。
 ホテルのロビーで昼ごろまでのんびりしていた。ヒマだったので、タブレットでネットニュースを見ていると、北海道の豪雨が気になった。
 何気なくHACのHPをのぞいてみると、ぼくたちの搭乗する便が欠航に変わっていた。
 あわててHACに電話した。しかし、ネットの情報を裏付けただけだった。
 明日7日は14:15の「千歳→小松」ANA便で帰宅する予定だったので、たとえば7日のHAC便に変更してもANA便に乗ることができない。
 旅の終わりのだらんとした気持ちが一変、緊張が走り、弛緩していた脳細胞を奮い立たせながら対策を考えた。
 とりあえず島を離れようと思った。
 稚内行きのフェリーを確認した。風は強くないので、フェリーは運航しているようである。この時期は1日3便。さいわい14:35の便には間に合う。
 すぐさま腰を上げた。フェリーターミナルに移動すると、予定変更を強いられたツアーの団体客があちこちでグループをつくっていた。
 チケットを買って、乗船待ちの列に並んだ。ツアーの添乗員が大声で、変更された予定を告げている。
 こういう場面でも冗談をとばすピンボケな客に、添乗員の多少うんざりした表情が垣間見える。同情してしまう。
 一抹の不安はあったものの、予定どおりフェリーは出航し、無事稚内港に到着した。
 雨のなか荷物をかかえ、すばやくJR稚内駅へと走った。とにかく、17:00発札幌行き特急「スーパー宗谷4号」に乗らないと、今晩は稚内泊まりとなる。ツアー添乗員の説明を漏れ聞けば、今夜市内でホテルを捜すのはむずかしいらしい。
 水がついた稚内市内は、この時間徐々に水が引き、JR特急は運転されるという情報を得ていた。しかし、稚内から幌延まではバスで代行となり、札幌到着予定22:09は大幅に遅れる見込みという。
 それでもありがたい。すぐさま切符を買った。これでなんとか明日帰宅できると思うと、一気に熱が上がったような気がした。
 じつは昨晩からノドが痛くなり、朝から日中にかけてじんわりと熱っぽくなってきていたのである。風邪だろう。
 幌延まで1時間半あまりのバスは、まだ完全に水が引かない道路を水しぶきをあげながら走った。すでに暗くなった外の風景を車窓から見ると、広い農地が湖のように見えて、バスは水の中を走っているような錯覚をおぼえた。
 立ち往生の不安をかすかに抱きながら、幌延駅に着いたときはほんとうに安心した。
 とはいえ、体調不良をかかえた札幌までのそのあと4時間の列車旅は、きつい車内冷房と車両を出入りする乗客の自動ドアの音に悩まされる拷問のような時間となった。(;O;)
(photo:利尻島ペシ岬から、鴛泊港と雲に隠れた利尻山