シンボルの値
「今年の夏はどこへ行きたいですか?」
「富士山へ行きたいです」
「登るんですか?」
「はい、登りたいです」
「大変ですよ」
「先生は登ったことありますか?」
「ないですよ」
「どうしてですか?」
「どうしてかなぁ……富士山は登りたいと思わないんです」
「えっ、どうしてですか?」
「う〜ん、人が多いし、木もないし岩ばかりだし、ちょっとおもしろくないかな。富士山は眺める山……だと思っています」
「ナガメル? それは何ですか」
「そうだなぁ〜、遠くからのんびりと見る、ことかな」
「そうですか……」
夏のはじめに外国人日本語学習者に質問すると、よくこういう展開になる。生徒の夢をつむ悪い教師である。
日本のどこへ行ってみたいかを聞いてみると、富士山がけっこう上位にあがる。日本のシンボルであり、容姿端麗な富士山へのあこがれはよくわかる。
ぼくは登ったことはないけれど、山ヤとして富士山の惨状は情報として知っている。想像もできる。
だから勧めないのだが、一方で登山の初心者が安易に登ることにブレーキをかけることも必要かな、と思うところもある。
ベトナム人に、ぼくはハロン湾に行きたい、といえばほぼ全員、あそこはいいところだぜひ行きなさい、と勧められる。
それがふつうだろう。でも、ハロン湾へ行く? やめとけやめとけ、といわれると……う〜ん、どうしても行きたくなるかもしれない。
そう思うと、逆効果か、あるいはぼくがへそ曲がりなだけなのか……。(*_*)
(photo:焼岳の火口湖)