開聞岳逍遙

 鹿児島は薩摩半島の先端に「開聞岳かいもんだけ/924m)」という山がある。
 どこから見てもコニーデ型の秀麗なかたちをしているこの山は、「薩摩富士」とも呼ばれている。深田久弥百名山にも選ばれている。
 ずっとあこがれの山だった。何があこがれかといえば、百名山だからではなくて、そのロケーションと特徴的な登山道、そしてもちろん山頂からの展望である。
 成り立ちはおそらく、海底火山が隆起して山を形づくり、北側で陸続きになったのだろう。海岸線から見事にそのまま、山が立ち上がっている。
 頂上に至る登山道は一本しかない。道は、山麓から山腹を巻くように螺旋状につけられている。したがって、あえぐような登りはない。
 その分距離は長くなっている。しかし、最短コースを直登するような登山道は身体に悪い。なにより、360度周りながら高度をかせぐというアイデアはユニークである。
 とはいえ、5合目までは樹林帯で展望がきかない。しかし、広葉樹の森のなかは暗くはないので、気持ちが沈むこともない。
 8合目あたりから樹木も低くなる。眼下の海を見下ろせば高度感たっぷりである。
 そして924mの山頂は、東シナ海薩摩半島、眼下の池田湖、指宿から桜島大隅半島種子島屋久島まで、ぐるりと見渡せるロケーションである。
 ーーこれが、あこがれの山のアウトラインである。
 登頂したのは3月11日。冬型の気圧配置となった日本列島は、南国とはいえ肌寒い風がほおをなでる、というような日だった。
 5年前のこの日、僕は中国にいた。現地のテレビを通して見た東北の惨状の衝撃は、今でも忘れられない。
 下山途中、サイレンとともに拡声器を通して麓から声が聞こえた。時計を見ると午後2時46分。ひんやりとした森のなかで立ち止まり、黙祷した。
 こうしてのんびりと山歩きができる幸運をかみしめながら、ふと鹿児島の川内原発のことを思い浮かべた。(*_*)