謎の北朝鮮

 北朝鮮のミサイル発射時期にタイミングを合わせたわけではないが、たまたま最近北朝鮮関係の本を2冊読んだ。
 まずは、『生きるための選択』(パク・ヨンミ著、満園真木訳/辰巳出版/2015年)。
 著者は若干22歳の女性。13歳のときに、母とともに脱北した。逃れた先の中国から韓国へ亡命するまでの、生々しい「半生」を綴った驚愕の書である。
 20歳そこらで語るべき「半生」があるとは、ふつうの人生では考えられない。
 金一族に私物化された北朝鮮という国の内情、とくに悲惨な地方の暮らしが活写されている。まさに刑務所国家である。一般の日本人が想像するにはかなり困難である。
 そしてまた、逃げ込んだ先の中国での体験もすさまじい。公安に見つかれば強制送還され、故国で拷問と死が待っている。
 そんな恐怖と日々の緊張をかかえる身に容赦なく、脱北者という弱みにつけ込む中国人が待ちかまえている。
 むろん脱北者を支援する人々や組織もあって中国人がみな悪者ではないが、中国から出国するのはなかなか容易ではない。
 もう一冊は小説である。『国境の雪』(柴田哲孝著/角川文庫/2015年)。
 小説にはふつう「この物語はフィクションである」などと断りが入っている。この本にも一応、フィクションであると記載されているが、「……だが、登場する人物、団体、地名にはできる限り実名を使用し、主幹となるエピソードはすべて事実に基づいている」となっている。
 いやはやすごいわ。本のボリュームもすごいけれど……。
 故国の機密をにぎって脱北したヒロインをめぐって、北朝鮮、日本、中国、韓国などの機関がくりひろげる権謀術数が見事。
 この物語では、北朝鮮の腐敗した権力側の非人道的でルール無用の実態が描写されている。
 胸くそが悪くなるようなくだりもあるが、ときどき目にする幹部粛清のニュースから想像すれば、現実感たっぷりで恐ろしくなる。
 最近でこそ、脱北者の実態というのは少しずつ明るみに出てきてはいるが、意外なことに韓国政府は彼らを決して歓迎していないということである。
 パク・ヨンミが韓国へ来てとまどったのは、「自由の使い方がわからない」ということだった。
 強制や隷属に慣れてしまうと、自ら考えて自分の意志で行動することができなくなってしまう、ということである。
 いやいや、まったく異次元の世界のことではない。我が国の為政者は、憲法を変えて国民を権力の監視下に置こうとしている。
 我が国の首領様に、金王朝3代目のむくんだ顔が重なって見える。そういえばどちらも世襲。コワ。(-.-#)
(photo:昭和館にて)