正月の洗礼
頭の痒いのだけはどうにもならん、とグチをいったら、痒くなるほど髪があるのか、と家人にいわれた。
正月も過ぎたある日の夜、歯茎が腫れて痛み出した。虫歯かなと思ったが、治療して神経を抜いてあるところなので判断できなかった。
朝になっても腫れと痛みは引かず、熱も出てきた。放っておいても治ると思えなかったので、歯医者に予約をねじ込んだ。
その日の夕方、フラフラになりながら、かかりつけの歯科医の処置イスに横たわった。
気は進まなかったが、まずX線で写真を撮られた。ーー被爆した。
気むずかしいが老練で腕の立つ医師は、写真を見てすぐさま病巣を発見し、有無をいわせず被せ物の金属を破壊しはじめた。
耳元で、あの歯医者のイメージを象徴する、キュインキュインという切削音が鳴りひびいた。
歯の根に巣くった患部は状況がおもわしくなく、膿をかきだす作業と患部を削り取る作業のたびに神経が反応し、気持ちだけ処置イスから30センチほど飛び上がった。
痛いときは左手を上げてください、などといわれたが、これまでの経験上、上げたところで、もう少し我慢してください、といわれることはわかっていた。
へたに左手を上げてしまうと、左側で医師の補助をしている歯科衛生士の女子にすがりついてしまい、そうなると医師の手元が狂って、僕の口の中が血だらけになる可能性がある。
予想以上に患部は深かったのだ。
そして、長時間の(といっても30分ぐらい)拷問に近い試練に耐え、またフラフラになりながら帰宅した。
治療直後に飲まされた鎮痛剤が効いたのか、帰宅後は身体が軽くなり痛みや熱がかなりひいた。しかし、拷問パート2は夜中に突然やってきた。
痛くて熱も上がり眠れなく、もらった鎮痛剤も効かなかった。
あれから3日。患部も安定し熱も下がった。ふつうの生活に戻った。もちろん髪も洗った。
しかしまだ、もらった福岡光月園のうまいキムチも食べられず、むろんビールも飲めず、いったい何の因果なのか。
若いベトナム女子たちと遊んだ正月の一日が、神の気にさわったのだろうか……と、思うわけないじゃないか。(^_^;