007との個人的な因縁
小学生のころテレビで観たマジックが忘れられない。
とても有名(らしい)な白人のマジシャンが、美女を回転する電動丸ノコで切断する、というショーだった。
ほとんど半裸の美女が箱のなかに入って台に寝かされ、たしか頭部と腹部の一部だけが外に出ている状態だった。うろ覚えだが、その美女は気絶させられていたように思う。もちろん演技だろうけれど。
そして、回転する丸ノコがジワジワと腹部に近づいていくのである。
子どもの僕は恐怖で目をそむけたかったけれど、やっぱり好奇心には勝てず、その瞬間まで見てしまった。
その驚愕の結末はなんと、丸ノコが腹部に食い込み血や肉片が飛び散ったのである。そしてその瞬間丸ノコは回転を止め、マジシャンが両手を広げて喝采をもとめたのである。
観客の拍手喝采のなか、あろうことか丸ノコと美女はすばやく舞台後方の暗闇に消え、そのまま彼のマジックは終了したのである。
あの女の人はどうなったんだ、という疑問符が頭のなかでオーバーフローし、すぐさまそれが恐怖に変わった。
さて話しは変わるが、昨年末に『007 スペクター』を観た。
007シリーズの第24作目らしいが、じつは007を観たのは前作の『007 スカイフォール』が初めてだった。映画鑑賞歴は長いけれど、まあマジでそうなのである。
あの手の映画が嫌いなわけではなかった。むしろ好きなのだが、じつは、見えない壁があったのである。
ここで、さきほどの人体切断マジックの話しにもどる。
じつは、あのマジックショーの背景にBGMとして流れていた曲が、007のテーマだった。印象的なエレキギターのイントロで始まるあの曲である。
あの美女切断以来しばらく、007のテーマ曲を聴くとあのシーンがよみがえり、口のなかが苦くなったものである。
まあ、それが原因でもないだろうが、不思議と007シリーズとは縁がなかった。だから、あのショーン・コネリーのボンドも知らないのである。
ダニエル・クレイグ版の2作を観るかぎりでは、ずいぶんと人間のドロリとした内面まで描いているところが、意外だった。監督サム・メンデスの手腕だろうか。(¨;)