重量級の重さ2題

 何かと忙しい年の瀬、飲む機会も増えて胃が重く感じる今日このごろ、追い打ちをかけるように最近は、心まで重くしてしまった。
 ひとつは、映画『ジョン・ラーベ〜南京のシンドラー〜』。日本軍による南京事件から、多くの南京市民を救ったドイツ人でナチス党員、ジョン・ラーベを描いた映画である。
 この映画は、南京事件70周年を記念して、ドイツ・フランス・中国の合作によって2009年につくられた。しかしじつは、日本では長らく上映できなかった、まあ、いわくつきの映画である。
 日本軍の南京虐殺を描いた内容なので、日本での配給会社が見つからなかったのは理解できるが、今回の自主上映の会場ではキャパ(340名)をはるかに超える入場者だった。
 いわく因縁の話題性を差し引いて考えても、若い人の姿をかなり見かけたことからも、こういう政治性の高い映画にも興味を持つ層が出てきたのだろう。
 内容は、もちろん日本軍がヒールとして描かれているわけだが、一方の当事者で被害者たる中国人の描き方がかなり雑であり、どうしても欧米の視点でとらえてしまっているところが、非常に不満だった。
 胸くそが悪くなるようなシーンがときどきあったり、戦場での人間の極限状態を表現したり、戦争の狂気は十分伝わってくるのだがーー。
 もうひとつ。同じ時期に読んだ、『人質460日』(アマンダ・リンドハウト、サラ・コーベット著/亜紀書房2015年)は、アフリカのソマリアで人質になったフリーカメラマンの体験記録である。
 ソマリアといえば「海賊」で有名になったが、それ以前から最貧国で「破綻国家」として知られている。アフリカ大陸の東海岸、角のように出っ張ったところを、ぐるりと囲むようにして国土がある。イスラムの国である。
 カナダ人女性、アマンダ・リンドハウトは無秩序状態のソマリアへ取材に入り、ちょっとしたスキにイスラム過激派に誘拐されてしまう。
 犯人グループは、身代金目当てに外国人をねらっているのである。
 誘拐されてじつに460日、彼女は、読んでいるこちらも吐き気をもよおすような拷問や虐待を受ける。もちろん性的なそれも含まれている。
 グループには少年兵も多数混じっている。彼らもまた、ある意味犠牲者なのかもしれないが、子どものころから狂気のなかに育ったその行く末に戦慄を覚える。
 誘拐犯グループもISIS同様、イスラムを名乗る犯罪者集団にすぎない。
 ーー先日パリで起こった同時多発テロと同様な事件が、今起こったら逃げようがないなと、『ジョン・ラーベ』の会場に座りながらふと思った。
 あたりまえに生活できることは、もしかしてとても貴重なのではないかと、まだ平和な日本にいてあらためて思う。(O_O)
(photo:暖冬で冬景色は遠い。再掲)