M君と水木しげる

 はじめて読んだときは『墓場の鬼太郎』という名の漫画だったが、やがてその漫画は『ゲゲゲの鬼太郎』というタイトルに改題され、人気を博した。
 それはそれでおもしろかったが、当時僕が夢中になったのは『巨人の星』『あしたのジョー』といったスポ根物だった。
 ーー小中学校のとき、M君という同級生がいた。小柄な男だったが、勉強もスポーツもよくできた。
 一時期つるんでよく遊んだが、どんなときも激することなく、冷静に周囲を客観視できる能力には一目置いた。
 もっともそのときは、凡庸な僕のような者がそういう彼の、いわば大人びた性格を認める力があったわけではなく、あとになって得心したものである。
 だから当時は、ちょっとふしぎで変わったやつ、という認識程度だった。
 一二度彼の家に行ったことがある。案内された彼の部屋の、整然とした風景に感心した。本棚には、スポ根物とは一線を画した漫画の本が並んでいた。
 そのなかに、『ゲゲゲの鬼太郎』のサブキャラクター「ねずみ男」が活躍する、水木しげるの作品があった。
 僕は「ねずみ男」に親しみを感じたのか、M君にその本を借りた。しかし、全部読み切ることができず、途中で投げ出した(ような記憶がある)。
 それ以来、水木しげるの作品とは縁遠くなったが、長じて、水木しげるの作品とふたたび出会った。
 それは戦争物だった。作者自身が体験した、リアリティと不条理に満ちた戦場の様子に衝撃を受けた。ついでに、かつて投げ出した「ねずみ男」物も読んだ。
 とてもおもしろかった。
 それは、大人の漫画だった。凡庸で未熟な子ども(僕のことだが)には、理解できない内容だったのである。
 中学校を卒業すると、M君とも疎遠になった。僕は彼に一目置いていたけれど、彼のほうはどうやら “ゼロ目” だったようである。
 次男坊だった彼はそれっきりで、地元にもどったという話しはきかない。(・o・)
(photo:沖縄、嘉手納基地。2013.11)