上京の状況

 東京へ行ってきた。
 東京へ行くことを「上京」ともいうらしい。東京に坂は多いが、全体的にみれば平野部である。東京へは、けっして上へ登って行くわけではない。
 首都だから「上」なのか? それはちょっと差別的ではないか。首都がえらいわけでもあるまい。
 そういえば、電車には「上り」「下り」がある。都市部に向かう方を「上り」というらしい。都市がえらいのだろうか。
 たとえば金沢からだと、東京へ向かう方向を「上り」というらしいが、それは富山方面へ向かうことななのか福井方面なのか、よくわからない。
 距離的には富山経由のほうが東京に近いが、歴史的経緯からなのか、福井へ向かうほうが「上り」になっている。
 金沢あたりの人たちは、いまだに上り下りの区別がつかないのじゃないだろうか。
 もっとも、最近では「〜方面」といういい方や表示が前面に出ているから、たいして問題ではないかもしれないがーー。
 「お上りさん」というのは、東京へ行く人を差す。しかし、田舎者をからかうことばである。ここでも、東京は「上」で、田舎は「下」という思想である。
 方言を恥ずかしいと思うことも、そこに通じている。このごろでは、方言に誇りを持つ人も増えてきてはいるが、方言をダサイと思う心理はそうかんたんに変わらない。
 逆に大阪のように、方言をアイデンティティとして絶対視する人々もいる。
 沖縄もそうかもしれない。同胞であるはずの日本人から差別を受ければ、いよいよ自分たちの文化で結束してしまう。
 京都が都だったころは、都へ行くことを「上洛」といった。まあ、一般庶民までそういうことばを使ったかはわからない。
 あの頃は身分社会だったから、京の都はあこがれであり、ヒエラルキーの頂点だったのだろう。
 しかし、「上京」するなんてことばはもう、ある一定年齢以上の人しか使わないかもしれない。
 そう思うとまた、べつの寂しさがある。(¨;)
(photo:根津神社にて)