燕岳の登降

 足が痛い。具体的には、太ももからふくらはぎにかけてである。
 とくにふくらはぎは全体が敏感な神経の塊のように、少しでも触ろうものなら、痛みで悲鳴を上げそうになる。
 したがって、階段の下りがつらい。家の2階からの階段が崖のように見える。一段一段、転げ落ちないように気合いを入れて降りなければならない。情けない。
 夜中のトイレが問題だった。寝起きの筋肉が硬化している足を起動させることが、これほど難儀なものとは、ふだんこれっぽっちも思わない。
 そもそも布団のなかでまず、トイレに行くか行かないか決断を強いられる。
 足の痛みに耐え這うように行動し用を済ませ、すっきりして朝を迎えるか。あるいは、己の廃棄物タンクの容量を信じて、そのまま放置するか。
 苦渋の選択である。しかし後者のケースであれば、中途半端な気持ちのまま悶々と朝を迎える可能性もあり、また仮に首尾よく寝入ったとしても、朝目が覚めたときにのっぴきならぬ状況に陥っている可能性も否定できない。
 ーー多少のダメージは覚悟していたが、北アルプス、燕岳の合戦尾根はやはり強者だった。いや、自分の衰えを自覚すべきなのだろう。
 急登の尾根とはいえ人気コースなのか、若者やファミリーの姿が目立った。あいかわらず中高年登山者は多いが、最近では「山ガール」のカラフルな姿がひときわ目をひく。
 ひとむかし前は、山といえば、かつてのアイドルのコンサート会場に集まるような中高年一色だった。
 かように、山の世界も確実に高齢化がすすんでいたのだが、ここ最近は若者の進出によって健全化がはかられている。
 山小屋もずいぶん変わった。特殊な宿泊施設とはいえ、小屋側も「もてなし」を意識するようになってきた。とくに、人気のある槍穂高北アルプスの山小屋は競い合っている。
 まあしかし、自分の足で登らなければならないのは、昔も今も変わらない。山小屋は快適になったかもしれないが、小屋に着いたら動けなくなったじゃシャレにならない。(^_^;)

燕岳黎明

合戦尾根は早くも紅葉