誤算と充足

 脳みそが溶け出してしまいそうな炎天下に、弛緩したその脳みそを叱咤激励しなくてはならないような「講演会」に、足を運んでくれる町民はほとんどいなかった。
 企画倒れだったか? 自己満足だったか? 町民を甘くみていたか? 日取りが悪かったか? PRが足りなかったか? そもそもムリだったのか?……などと、いろいろなことが頭をかけめぐる。
 一昨日の日曜日、我が町内会主催(といっても、会長である僕の独断企画)で「防災のためのお話し会」を開催した。
 講師には、福島県からこちらに避難してこられたAさん夫妻とIさんをお招きした。
 あのとき、それぞれの立場で経験したことをお話しいただき、そのことから我が町内会の防災意識を啓蒙し高められたら、というところがねらいだった。
 もうひとつは、大震災や福島のことはもう終わったことだと、何となく思われているそんな巷の空気を攪拌し、あらためて原発事故の恐ろしさを知ってもらう機会にもしたかったのである。
 保守的というより「ばかの壁」が立ちはだかるこの地域で、政治がらみ、とくにリベラルに寄ったテーマが顔を出すようなことは好まれない。
 古老たちの常套句は「あいつはアカだ」である(であった)。今はさすがにそんなことばは聞かれなくなったが、地域を支配する連綿たるうっとうしい空気は今も健在である。
 僕などは多少「変わり者」と思われているフシもあるので、そのような妥協と盲従だけはするまい、と思って「ばかの壁」の上をあっちに落っこちないように歩いてきた。
 講師の方々のお話しは、未曾有の災害を経験した一市民のドラマとして胸に迫るものがあった。
 約220人の方が、福島県から石川県に避難してきているという。全国レベルでは約11万5,000人が福島をはなれているという。
 しかし、大震災の経験を口に出して伝える方はごく少数だともいわれている。
 Aさんご夫婦もIさんも最初はそうだったが、今ではスイッチを切り替え、話し伝えることも厭わないという。また、そうすることによって生ずる軋轢もある、ともいうがーー。
 炎天下、流れだしそうな脳みそを押しとどめ会場にやってきた町内有志11名は、きっと暖かいお土産をもらって帰ったことだろう。冷えてなくても気にならなかったハズである。
 講師のみなさんには集客の悪さのこの体たらくを詫びたが、かえってなぐさめられ、聴衆の数はどうあれ話しができたことに感謝された。ーー人間の器がちがう。(*_*)
(photo:横川にて)