迷子になったパンツ

 フィットネスジムで汗を流し風呂に入ると、ほんとうに気持ちがいい。風呂上がりにエアコンの効いた休憩スペースでぼんやりし、放心状態になるのが何よりの至福である。
 しかしこの季節、弛緩した身体で外に出ると熱風の洗礼をあびて一気に現実に引きもどされるのだ。家に帰るころには再び汗まみれになり、緩慢な動作で洗濯物をカゴに入れるのである。
 その洗濯物だが、ジムで着替えた服とジムでトレーニング用に着た服、それに下着類やタオルなどでけっこうな量になる。
 昨日もそれらをポンポンと洗濯カゴに放り込んでいたら……あれ? 脱いだパンツがないのである。
 汗でぐちゃぐちゃになったパンツ(汗だけです)なので、他の服にからまっているのかもしれないと思い、汗臭い洗濯物一式を総点検した。さらにはジム用の通いバッグまで逆さにしてみたが……ない。
 血の気が引いた。……というほどウブではないが、多少狼狽した。
 おそらく脱衣所からロッカーまでのあいだで落としたか、ロッカーのなかでバッグからこぼれ、忘れたかのどちらかだろう。
 後者であれば、そのロッカーがその後次の人に使われていないなら、人目につかず秘密裏に回収可能である。
 しかし前者なら、床に落ちたままの状態と思われ、衆人の好奇な目にさらされているはずである。まあ、そこは男の世界だから羞恥心もさほど感じないがーー。
 ところが、問題は次のケースである。
 掃除のおばさんがときどき、脱衣所や風呂の巡回にくるのである。おばさんといえども女性だから問題ありだと思うが、ここではそれが論点ではないのでスルーする。
 で、そのおばさんがスルドく僕のパンツを見つけ、汚染物質を扱うようにおそらくビニール手袋をはめ、できるだけ身体からはなすようにしてレジ袋などに回収するハズである。
 まさかこの遺留品から落とし主の手がかりになるようなものをさぐる、というようなことはするまい。たとえば、しげしげと眺めまわす。臭いをかぐ……とか。
 もしかして現場で声を上げて、周囲の男どもに告知するかもしれない。その恐れもある。
 さらに恐ろしいのは次のケースである。
 おばさんにピックアップされたパンツは、落とし物陳列棚に並ぶのである。問題はそこまでの経緯にある。
 落とし物はおばさん自ら棚に収納するのか、あるいは一旦ジムの職員やトレーナーの手に渡ってから棚に収まるのか、である。
 この後者のケースを危惧して、さきほど狼狽したのである。彼らは、ほとんどが若い女子なのである。
 ーーまた汗だくになってジムまでとって返した。無事回収。(^_^)
(photo:旧中山道海野宿にて)