廃線ウォークで敗戦

 気がつけばもう月末である。いったい何をしていたのだろう。いや、いろいろ忙しかったことはまちがいない。
 最近は、干上がったダム湖のように、考える力や想像するネタが枯渇してきていた。それで夏風邪にやられたのかもしれない。
 ほんとうは、海の日の3連休に引っかけて山へ行くつもりだった。山ヤの間では、「海の日は山へ」が常識化しているらしい。
 僕は自営業だから、確実に混雑が予想される3連休に、あえて山へ行くなどという愚行はしない。また、国の思惑にしたがって海へ行くつもりもない。
 じつは、3連休の最後の一日から山へ入るととても具合がいいのである。
 すし詰め山小屋で寝不足となり、うつろな表情で次々と下山してくる登山者を気の毒には思いながら、今夜の快適な山小屋を想像しつつ歩くのである。性格悪いなぁ。
 そんな夏の快適山行を、例年どおりずいぶん前から計画していた。ところが直前の夏風邪で、体力が急降下してしまったのだ。
 ヴァイオリンは、一日練習をさぼると3日後退するらしい。と、さだまさしがいっていた。しかし、老境の体力はその比ではなかった。一日寝込むと一ヶ月後退するような感じである。
 そんな想定外の変調で、高山を縦走する自信がすっかりなくなってしまった。これはきっと身体が休養を要求しているのだろうと解釈して、せっかくなので「保養の旅」に出ることにした。
 ところが、保養にしてはいささかハードな、炎天下の廃線ウォークをしてしまったのが失敗だった。
 かつて信越本線の軽井沢横川間は、碓氷峠越えが難所だった。そこはアプト式線路で急勾配を登った、国内でも有名な区間だった。その廃線路の山中の一部が開放されているのである。
 全行程約6km。連続するトンネルのなかは涼しく、コースを下りにとったので基本的には楽勝な行程である。……そのはずだった。
 ところが歩いた翌日から3日ほど、足の筋肉痛に悩まされた。ーー衰えは想定外だった。
 しかし、それよりも何がくやしかったかといえば、連れ合いの勝ち誇ったような上から目線だった。(; ;)
(photo:旧信越本線。トンネルが連続する)