幸せの基準
以前アパートの一室を借りてデザイン事務所をやっていたころ、昼間、けっこう頻繁に見知らぬ人が訪ねてきた。
そのほとんどが新聞購読の勧誘だったり何かの販促だったのだが、ときどき不用意にドアを開けると、「あなたは今しあわせですか」「神を信じますか」……などといきなりいわれて面食らうことがあった。
まあ、宗教関係者なのだが、唐突にそんな難しいことを問いかけられても答えようがない。
よほど虫の居所が悪いときでない限り、穏便にすみやかにお引き取りいただいていたのだが、ふつうほとんどの人は「幸せ」なんてものについて考えないで生きているのではないか、と思う。
意識しないで生きている、ということは幸せな状態である、という見方もできるが、では、日本人の「幸せ」意識はどうなのだろうか。
アメリカの世論調査機関ギャロップの「幸福度調査」(2010年)によれば、日本は155カ国中81位である。1位はデンマーク。以下、フィンランド、ノルウェー、オランダ、コスタリカとつづく。
ちなみにバングラデシュが91位。全体からみれば日本と大差がない、といえる順位だ。
えっ? と思いませんか。
他のいろいろな機関も調査しているが、たとえばイギリスのレスター大学の調査(2006年)によれば、日本は90位である。
北欧など高福祉国が上位にくるのは同じ傾向だが、ブータンが8位、ブルネイが9位にランクイン。なんと中国だって、82位と日本より高いのだ。
調査の基準によって多少変動はあるが、しかし、先進国日本の幸せ意識の低さはどうしたことだろうか。
宗教人類学者・植島啓司によれば、「幸せとは心に不安のない状態」だという。
ということは、お金やモノではない、ということがいえそうである。というか、お金やモノで測ることは難しい、ということだろう。
1970年代に同様の調査をすれば、たぶん日本はかなり上位に位置したのではないだろうか。
しかし、今の若者は案外幸福度が高いという。生まれたときから低成長、停滞の時代を生きてきて、それがスタンダードになっているからだ、という。
さて、植島先生の基準に従えば、今の日本が進もうとしている方向には、国民を不安のどん底に落とし入れる要因ばかりなような気もするが、ちがうだろうか。(-_-#)