クリント・イーストウッドからの「メッセージ」

 さいとう・たかをが産み出したダークなヒーロー、ゴルゴ13を彷彿とさせる。
 漫画の世界だけかと思っていたら、現実にカリスマ的なスナイパーが存在したとは、知らなかった。
 もちろん、ゴルゴ13のような超人的な狙撃手ではなく、あくまで常識的な範囲内での人並み以上の能力の持ち主、という断り付きではあるが……。
 クリント・イーストウッドの最新作『アメリカン・スナイパー』(2014年/監督作品)は、実在したアメリカ軍の狙撃兵、クリス・カイルを描いた伝記映画である。
 イラク戦争(というか、アメリカがしかけた戦争)に4度に渡って従軍し、160人もの「敵」を射殺した、アメリカにとっては伝説的なヒーローである。
 この映画はアメリカはもちろんのこと、日本でも大ヒットしている。しかし当然のことながら、賛否はある。反戦か戦争賛美か、という2項対立である。
 イーストウッドの映画には、際だったメッセージ性はない。どんなテーマの映画でも、そこに見いだせるのは完成度の高さと、そして娯楽性である。
 しかし不思議なことに、彼の映画のなかにはいつも、隠し球のようなお土産が用意されている。それはイーストウッドからのメッセージにちがいないが、単純に答えが包まれているわけではない。
 この映画の主人公は、戦場では任務に忠実な兵士として「敵」の命を奪うが、家庭にもどればやさしい夫であり、よき父である。
 しかし、戦場の異常な世界は、彼の精神を確実に蝕んでいく。そして、祖国のためにと思い戦ってきた彼は、いつしか小さな疑問を抱く。
 除隊して軍を去り日常にもどるが、病んだ心は容易に癒えることはなかった。
 彼は、退役軍人のサークルに加わりボランティアとして働くが、結局は、一人の帰還兵に殺されてしまう。
 クリス・カイル本人が書いた自伝をもとに、多少脚色を経て映画は制作されたようである。しかし、訓練や戦闘シーンはおそらく現実に近いと考えられる。
 ごく最近起こった戦争の現場に、映画のシーンとはいえ、そこに自衛隊の姿を重ねてしまうことは、ありえない想像だろうか。
 この映画を観て涙を流した、というアメリカの有名人の声が多数伝わってくるが、どこで涙を流したのだろうか。僕はとてもそんな無邪気にはなれない。
 自衛隊員とその家族、日本の若者にぜひこの映画を観てほしい。(-.-#)