「知ったか」二題

 「フランス映画って疲れるよね〜」
 「どうして? わたしは好きですよ」
 「でもね、いつの間にか終わったり、観たあとでどんより落ち込んだりする映画、多くない?」
 「そうですか? わたしはそうは思わないけど……。じゃあ、どんな監督が好きなんですか?」
 「え〜え〜(狼狽する)、パ、パトリス・ルコント……とか」
 「え〜! パトリス・ルコントぉ〜?」
 と叫んで、演奏家の彼女は絶句した。何にあきれたんだろう?
 じつは僕も、とっさに知っている監督の名前を出しただけで、パトリス・ルコントの映画は何本か観ているが、中身は思い出せなかった。
 ほかのフランス人監督も知ってはいるが、最初に思い出したのがパトリス・ルコントだった。それに、他人にひとくさりできるほどフランス映画にくわしいわけでもなかった。
 どうしてこんな話しになったのかわからないが、まずい展開を察知して僕は早々に話題を変えた。
 こういうのを「知ったかぶり」という。
 またあるときはーー。
 「ワインはやっぱりいいですね〜」
 「キミもそう思う? わたしはうまいワインを飲むときが至福なんだよ」
 「そうですか。ところで、先日はじめて、ワインの試飲会を体験しました」
 「ほ〜、どんなワインを飲んだの?」
 「え〜え〜、名前はちょっと忘れましたが、フランスとかチリ産のいいワインです」
 「???」
 「あ〜〜(あわてる)、香りを楽しんだり、色を楽しんだり……勉強になりました」
 「キミはいつもどこのワインを飲んでいるの?」
 「え〜(汗)、国産の無添加の、とか……」
 「???」
 講師の先生は、あきれ顔でワインをあおった。研修会後の、懇親会の席での一幕だった。
 このように「知ったか」をして失態を演じてしまった。底が透けて見えるような、「フリ」をするのはもうよそうと固く誓った。
(photo:北大植物園にて。2012)