秋山ワンデイ

 国道157号線を、福井県大野市から真名川沿いに南下した。
 道は少しずつ高度を上げる。ダムの堰止め湖である真名姫湖を過ぎてしばらく走ると、熊河地区というところで道は一気に「酷道」となった。
 一応舗装はされているが、幅員は一車線であり、片側はガードレールのない断崖である。対向車に気を配る。
 157号線は岐阜市まで通じているが、こんな道路を利用するクルマは限られる。平日ということもあるのか、対向車は皆無だ。
 そんな見通しが利かないワインディングロードを10km以上走り、ようやく福井県岐阜県の境、温見峠(標高1,020m)に到着した。
 路肩にクルマを駐め外に出ると、足もとがふらついた。自宅を出て約2時間半、とくにラストの山岳ドライブが平衡感覚を狂わせたようだ。
 身支度をととのえ、ひんやりとした空気のなかを歩きはじめる。ブナ林の道である。
 しばらくはゆるやかにつづくが、しだいに傾斜がきつくなり汗をかきはじめた。樹林が開けたところで立ち止まると、微風が身体から気化熱をうばい、登山用シャツ一枚では涼しいというか、寒く感じた。
 快晴のプレゼントは、波のように重なる山々の展望だ。そのずっと先に、モノトーンの御嶽山がくっきり見える。噴煙も鮮明である。
 ワンピッチぐらい登ったところで、稜線に出た。ナナカマドの赤い実が、足もとにドサドサ落ちている。枝ごとだから「ドサドサ」という感じだ。この前の台風のせいだろう。
 1,492mピークを過ぎ、なだらかな尾根を少しアップダウンしながら歩くと、まもなく能郷白山の頂上(1,617m)に到着。登山口から約2時間、まあまあのペースだった。
 頂上には一等三角点が置かれているが、灌木に囲まれて眺望はいまひとつ。岐阜県側に少し下ると権現社があるので、そこまで足をのばした。
 こちらは、さえぎるものもない360度の大展望であった。奥美濃の山々は手に取るように、乗鞍岳北アルプスの連山がはるか向こうに見渡せる。
 あいにく白山は上がってきた雲に隠れて見えなかったが、秋の山の匂いと冷涼な空気は、いつものおにぎりの味を極上にした。……なんていうと、ちょっとおおげさか。(*_*)
(photo:能郷白山にて)