Enter the Cruise

 かつて仕事用に軽自動車を買ったことがある。どうせ仕事でちょろちょろ走り回るだけだからと思って、ベーシックなグレードでいいと考えていた。
 ところが実際は、いろいろな装備やアクセサリーを付けたくなり、結局は小型普通車が買えるような見積もりになってしまった。
 我が家のような平均的所得層は、ふつうはそうたびたびクルマを買い換えるわけにはいかない。だからついつい、「どうせなら」と思ってしまう傾向があるのではないか。なんとも貧乏臭い話しではあるが……。
 今回のクルーズもそうである。「どうせなら」と、もう一人の自分が耳元でささやくのである。そうなると近視眼的視野狭窄症におちいり、いよいよ欲望一直線になってしまうのである。
 で、海側のバルコニー付きの部屋ぐらいがよさそうだな、と思った。
 当然価格はそれなりに上がるが、一旦上昇したテンションは荒い鼻息となって現れ、件の担当大阪弁女子に電話するために受話器をにぎるのであった。
 思わぬ拍子にクルーズ旅が実現しそうになってしまったが、ほんとうにこれでいいのだろうかと、受話器を置きながら自問した。
 何が気にかかったかといえば、クルーズ旅というのは、「これまでの人生のご褒美」というようなイメージを持っていたので、黄昏れるにはまだ早い(と思っている)この時期に、自分に「ご褒美」なんて……という思いがあったのである。
 それはおそらく自分自身が作りあげた、固定観念に近い古くさいイメージなのかもしれない。船を利用した旅、というふうにとらえれば、いつもの旅と変わらないのだから。
 近年、航空旅客輸送業界ではLCC(Low Cost Carrier)が台頭してきた。安い運賃で空の旅ができるようになったのである。そこには制約も多いが、航空機を使っての旅行が大衆化してきたのである。
 じつはクルーズ業界にも、徐々にそういう傾向がみられる。高嶺の花だった豪華客船の旅が、一部まさにLCC(Low Cost Cruise)化してきているのである。
 それならば、何も躊躇することはない。と思って、クルーズの入口に立ったのである。(^_^;)
(photo:上から、サンプリンセスのデッキ、劇場、エレベータ、アトリウム)