ビール、のようなもの

 「最近痛風が出てなぁ、嫁さんからビールを取りあげられたんだよ〜」といいながら、僕の友だちはジョッキをあおった。
 思わずこちらの、ジョッキを持つ手がとまってしまった。「大丈夫か?」と聞いた。
 「あのときは、もう死んだ、と思ったよ」といいながら、冷や酒のグラスをうまそうに口に運んだ。
 家で心筋梗塞で倒れ救急車で病院に運ばれた、という年配の友人である。
 最近はトシとともに、飲み会の席でも健康ネタ(または病気ネタ)が増えた。おたがい身も心もくたびれてくれば、そうなるのである。
 それでも酒を飲む。一度手にした享楽はやめられない。まあ、そうだろうなぁ〜。
 メーカー側も努力する。プリン体ゼロのビール(発泡酒)を出す。痛風持ちには朗報だろう。嫁さんはがっくり肩を落とし、やけ酒をあおる(んなわけないか)。
 もちろん、ビールじゃなくてもビールの味がしないと困る。不自然なことをすれば、つじつまを合わせるために、メーカーはどこかで無理をする。
 いったい何が入っているのだろう。糖質ゼロ、というのもある。いったい何が入っているのだろう。
 ノンアルコール全盛。ノンアルコール日本酒まで……。限りなく清涼飲料水である。自動運転の自動車のような本末転倒。
 でもメーカーは大まじめ。消費者も大まじめ。
 「第3のビール」。なかなか粋なネーミングだ。「第3の男」。あれは映画だ。
 ビールの遠い親戚スジにあたるような製品だ。だからもはやビールではない。と、思っていた。
 しかし、遠いハズなのに “敵の敵は味方” とばかりに、驚いた。
 ビール以外は認めなかったこの舌とのどが狂った。いや、もともと錯覚していただけか。ビールの味などわかっていなかったのかもしれない。ショックだった。
 とにかく、安いことはいいことだ。でも、無邪気に喜んでいていいのか、と第3のビールを飲みながら思う。
 何かがおかしいと思う。本業を忘れないように。(^_^;
(photo:名古屋の猫)