草刈りと陶酔

 梅雨入りしたらしい。どうりでジメジメしている。朝晩はまだ涼しいが、昼間は蒸し暑くなってきた。
 季節はそろそろ蚊の活動時期に入った。連中のあの不快な飛翔音を耳にすると、人は取り乱し落ち着きをなくす。あの手の周波数の規則正しさが、人間の神経を刺激するのだろうか。
 そういえば、ときどき家の近くで大きなアブの飛翔音のような音がする。その音にまじって金属が擦れ合うような音もする。
 草刈機である。エンジン付きの回転刃式ハンディタイプが、いつごろからか広く一般に普及している。手ごろな値段から手に入るらしい。
 わけあって僕も一度、かなり広大な雑草地を刈ったことがある。あれを使いこなすには少しコツがいる。慣れるまで少し時間がかかった。
 しかし、作業自体は楽しいのである。青々と茂った草どもを大虐殺する快感、とでもいおうか。思わずニタリを笑えば少し危ない。
 もっとも、連中は生命力が強く、髪を切ったぐらいの影響でしかないのだろうけど。
 ちまたをながめると、草刈機をあやつっているのは男が圧倒的に多い(ようだ)。
 ときどき、作業に陶酔しているような姿もみられる。男の内面にひそむ攻撃性ともいうべきものが満たされるのだろうか。
 そういえば、我が父も嬉々として草を刈っていた。そういう自分も、田植えより稲刈りのほうが好きだった。そこには、収穫のよろこびのほかに何かべつのものがあったことはまちがいない。
 近所の草刈音は、まあ、1〜2時間ならがまんしよう。しかし、いつの間にか雑草地が赤茶けていくこともある。
 除草剤である。あれはタチが悪い。音もなく薬剤が撒かれ、気づいたときには草が全滅している。まさしく化学兵器である。
 不穏な空気は音のなく忍び寄り、気がつけば、取り返しがつかない事態になっている。赤茶けた大地は、草刈機の坊主刈りより100倍悲しい。(;_;)
(photo:道しるべ。鈴ヶ岳にて)