突然の別れ

 そういえば、この前予兆らしきものがあった。あのときすばやく手を打っておけば、あるいは、手遅れにならずにすんだのに。と、後悔した。
 ーーパソコンの話しである。先日、商売道具のMacG5が壊れてしまった。
 あれが前触れだったのか……と思いあたることはある。警告を発していたのだろうが、それが重篤な事態につながるとは思ってもみなかった。
 なんだか人間の身体と似ている。予兆はあっても見過ごし、ある日突然ダウンしてしまう。しまった、と思っても、すでに遅し。
 起ち上がらない。励まして、もう一度やってみる。やはりダメである。長年の勤続疲労で消耗したのだろうか。
 でも、けっこう休みはあたえた(仕事がヒマだった)から燃え尽きたということは考えにくい。待遇はよかったはずである。
 では寿命かーー。就職したのが2005年だから、まあ、寿命といえなくもない。メンテはほとんどしなかったからなぁ。悪かった。
 老体にはちがいない。だったら励ますのは逆効果だろう。今度はなだめすかして、いたわりのことばをかけながら優しく起ち上げた。
 するとどうだろう。いつもの元気な顔がもどってきた。なんだ、仮病か。と思いつつ、恐るおそる作業をはじめた。
 いけそうだ。しかしここはとりあえず、データのバックアップだろう。
 サクサク作業が進むはずだった。いや、期待していた。しかし、しばらくすとモニターの画面がサーッと、黒い半透明の幕に覆われた。
 そして、いつものアラートとはちがうデザインの、おどろおどろしい警告が現れた。すぐに電源を落とすように、と。
 万事休すーー。以上をもって、G5は眠りについた。
 思い返せば、僕のもとに来たときからあいつは病弱だった。「当たりが悪かった」、などと新車にハズレがあるように、パソコンにも個体差があったのだろう。
 しかし、9年間もよくがんばってくれた。そう思うと、ごくろうさん、である。
 もう励ましたり、決してしませんから。<(_ _)>
(photo:カタクリの終わりには間に合った。平栗にて)