カトマンズで沈殿
旅の話しや観た映画の話し、読んだ本の話しを延々とされることほど、迷惑で退屈なものはない。それは、自慢話しの類になるからかもしれない。
闘病の話しや政治家の演説、上司の説教もそうである。もちろん共感できれば、それは極上のコミュニケーションにはなるがーー。
そういうわけで、ブータン、ネパールの話しもそろそろ終わりにしたいと思う。
今回の旅は、出発前からあまり体調がおもわしくなく、かてて加えてブータンの寒さでダメージを受けたのか、カトマンズではついに風邪をひいて寝込んでしまった。
熱が出て、腹痛になやまされたのである。9年前には赤痢に罹っているので一瞬あせったが、2日ほどホテルで寝たり起きたりしているうちに治った。
したがって、ネパールには1週間いたが、カトマンズやその周辺を多少ウロウロしたぐらいで、またたく間に帰国の日がやってきた。
友だちの家にしばらくやっかいになるつもりだった。しかし、彼ら夫婦の愛息が生後1年に満たないことを考えると、もしかして僕は風邪なんかじゃなくて伝染性の病気だったらマズイなと思い、結局ずっとホテル住まいをしてしまった。
合間をみて出歩けば、街の空気の汚なさにたじろぎ、そんななかでパワフルに生きる現地人やエネルギッシュに行動する旅行者に気後れする自分に気がついた。
本来心地いいハズのこの街の喧噪をわずらわしく思い、体調の悪さに起因する内向きの力に精神が屈してしまったかのように、ネパールの空気も匂いも色さえもどこか遠いことのように感じ、身体が浮游していたのである。
「この次はブータンに寄らず、直接ネパールに来てください」
別れ際、友だちにいわれた。
苦笑するしかなかったーー。
(photo:パタン市にて)