疎の国から過の町へ

 「ブータンはどうですか?」と、何人ものブータン人から質問された。
 しばらくは、人が親切、食べ物がうまい、自然が残っている、美人は多いが犬も多い、などということを答えていた。
 しかしそのうち、いろいろなブータン人がどうしてそんなことを外国人に聞くのだろうか、と疑問に思いはじめた。
 外国人慣れしていない、という事情があるかもしれない。あるいは、自分たちがほんとうに「幸福の国」に住んでいるのかどうかわからない……とか。
 あるいはまた、外国人に会ったらそう聞け、と王室から秘密指令が出ているのかーー。
 ブータンの人々はあくせくしていなくて余裕やなぁ、というふうに見えたので、外国人の目など気にしなくてもいいじゃないか、と思ったりもするのである。
 まあ、たまたま立てつづけて社交辞令のように聞かれたのかもしれない。ましてや、ブータン全土をくまなく巡ったわけではないし、行ったところといえば西部のほんの一部の地域だから、一般化はできないだろう。
 しかし、ブータンは寒かった。
 訪れた首都ティンプーや古都パロは標高が高く、この時期はまだ寒いのだが、ホテルなどの暖房施設は無いに等しかった。
 シャワーのお湯もへたをするとたちどころに冷たくなったり、身体が冷えるまでお湯を待ってもついぞ出会わなかったりするのである。
 だからといって、「ブータンという国は……」と、したり顔でネガティブなことをいうつもりはない。
 ーーそれが旅というものである。……などとは、帰国してからいえることではあるんだが……。
 そんなブータンをはなれてネパールへ向かった。
 久しぶりのカトマンズの街は以前にも増して車やバイク、人が増え、起ち上がる排気ガス、砂塵や埃がカトマンズ盆地全体に沈殿していた。
 乾季のまっただ中、という気候的な事情もあるのだろうが、それは人々の営みが発する熱気や怨嗟、はたまた、得体の知れないカオスの極みのような気もした。
 しかし、寒さで緊張を強いられていたブータンからやって来た身としては、カトマンズの温暖な空気が心地よく、身も心も一気に弛緩したのである。
 そして、人間気がゆるむとロクなことがない。(;_;)
(photo:ブータン航空機からヒマラヤ。カトマンズの喧噪)