タクツァン僧院へ登山

 ここ数日忙しい日がつづいたので、またブランクをつくってしまった。
 ブログをふり返ると、ブータンの名所旧跡についてまったく紹介していない、ということに気づいた。
 じつは、あまりガツガツ観光地めぐりをするほうではない。そういう志向からして、すでにツアーに不向きであり、ガイド同行もうっとうしい、と思ったりするのである。
 しかし、観光地であろうとなかろうと、そこだけは外せまい、と思ったところへはやはり行かねばなるまい。
 今回のブータンの場合は、「タクツァン僧院」。ブータン仏教の聖地、断崖絶壁に鎮座した見事な寺院である。
 まずは、古都パロの中心部から車で小1時間、僧院への登山口に到着する。すでに標高は2,400mである。
 杉木立の間に馬の姿が見える。かなりの頭数である。聞けば、足に自信がない場合は、途中のレストハウスまで馬が運んでくれるそうである。もちろん有料だがーー。
 整備された登山道を登りはじめる。馬も通るせいか、道は林道を思わせるような広さである。当然、馬の糞はごろごろ落ちている。よく下を見て歩かないと踏んづけてしまう。
 しかし、元来馬は山を登る動物ではない。馬が苦手な山道を、その背に乗って登るというのもかなりスリリングだろう。というか、少し大変、とガイドはいう。
 約1時間で、僧院が建つ崖を真正面に望むことができるレストハウスに到着した。標高は2,800mである。ガイドブックでは2時間となっていたが、ゆっくり登ってもそんなにかからない。
 小雨がぱらつきさすがに寒くなってきたので、小屋のストーブはありがたかった。そのそばには、小屋の主のように猫が一匹、まるくなって眠っていた。
 登山客には欧米人も多く、小屋のなかは国際色豊かだった。何カ国語かが飛びかっている。
 僧院が展望できればここで引きかえす人もいるらしいが、あいにくガスで視界はすこぶる悪い。これじゃあ僧院まで行くしかないだろう。
 ふたたび登りはじめた。雨は、3,000mを越えたあたりで雪に変わった。冬を想定していなかったので、寒さ対策は稚拙だった。
 3,200mぐらいから下りの道になり、いよいよ僧院の境内に入った。下りきると、そこは滝の下になっており、渓流を渡り登りかえすといよいよ寺院の核心部である。
 ここまで、レストハウスからさらに1時間だった。
 入り口で身ぐるみはがされ、というほどでもないが、財布とパスポート以外は持ち込むことが許されず、身体検査を受けて入場した。
 崖にへばりついた寺院は複雑な構造になっていた。有名な開祖が瞑想した寺院や、歴史的な高僧が建てた寺院をいくつかめぐり、そこで聖水をもらい布施をした。ーー寒い。
 タクツァンは、確かに秘境だった。2時間かけて、自力でようやく到達するからなのか、そこはまさに聖地の雰囲気がただよっていた。
 信仰心がうすい僕のような者でも、霊験あらたかな気持ちになるから不思議である。
 しかしまさかブータンに来て、ほとんど登山をしようとは思わなかった。タクツァンに行きたいと思いつつも、どこか事前勉強不足だったことを反省した。
 下山路では、雨でぬかるんだ馬の糞に足を滑らさないように神経をつかった。転べば最悪の事態に見舞われる。馬は廃止すべきである。(・o・)
(photo:タクツァン僧院)