さん付けの適用範囲

 グラフィックデザインをバリバリにやっていたころは(今でも仕事さえあればやるけれど)、初対面の相手に自分が「デザイナー」であるということを名乗ると、どこか背中のあたりがもぞもぞしたものだ。
 カタカナ職業がどうもしっくりこなかったのだが、さりとて業界ではカタカナ呼称があたりまえだったから、たとえば、「意匠人」などという名乗りかたをするとキワモノ扱いされかねない。
 仕事上関係者と打ち合わせすることが多く、いろいろな人と顔を合わせたものだが、そういう場でのビジネス語もまた、背中のあたりがぞわぞわした。
 「御社」や「弊社」で、カタカナ語を駆使して「させていただ」いただいたりする、アレである。
 なかでも、「さん付け」がいつも気になっていた。人名に「さん」を付けるのはきわめて正常だが、肩書きに付けるのはどうもおかしい。
 たとえば、社長さん、課長さん、店長さん、頭取さん、院長さん、……など、ちまたでは違和感なく使われている。
 でも本来、「役職」には敬称の意味もふくまれているから、さん付けは必要ないと思う。
 はたまた、学生さん、看護師さん、税理士さん、議員さん……などといういい方も耳にする。
 こちらは、「身分」にさん付けされているが、それなら、小学生さん、教師さん、サラリーマンさん……などもあっていいと思うがあまり聞かない。
 さらには、人格でないものにもみられる。トヨタさん、ソニーさん、JRさん、……あまつさえ、農協さんとか石川県さんとか、まったく適用範囲が広い。
 笑ってしまうしかないのだが、ビジネスシーンではマジである。ようするに、あまりルールがないような感じではある。
 しかも最近ではさらに進化しているようだ。
 テレビを見ていたら、ある事件のコメントを求められた市民が口にしたことばは、「犯人さん」だった。
 のけぞってしまった。おいおい、これは笑えないよ〜。日本人は大丈夫か? と思ってしまう。
 しかしまあ、この国のトップも大丈夫か? ですね、総理大臣さん。(*_*)
(photo:札幌は雪だった)