手入れの憂鬱

 歯医者に行った。定期点検である。くどくど文句をいわれた。
 歯ぐきのポケットが深い。ここの歯ぐきの炎症はよくない。歯ブラシの使い方が悪い。フロスはちゃんと使っているのか? 歯間ブラシも使え。くどくど……
 あ〜あ〜、う〜う〜。こっちは口を開けた状態だから応答できない。防戦一方だ。
 ーーまあ、しかたがない。誰のせいでもない。自分が悪いのだ。ちょっと手を抜くと、たちどころにあらわれる。身体とは正直なものである。
 ここ30年ほどごやっかいになっている歯医者は、まじめで腕が立つ。歯の切削技術は、精密な彫刻のようである。むやみに歯を抜いたりもしない。
 治療中の痛みにも配慮をおこたらないところも、すばらしい。
 痛いときは手で合図しろ、という。そのとおりにすると、我慢してくれ、という。じつに行き届いている。
 地域発展のために、いろいろご尽力もしておられる。メディアでも取りあげられたことがある。いわば、人格者なのである。
 いくぶん気性が激しく、それをときおり垣間見ることは今でもあるが、トシをとってからはずいぶんおだやかになられた。
 若いころは、スタッフも患者も戦々恐々としていた。患者の立場は一過性だが、医院のスタッフは大変だったことだろう。
 とはいえ、患者にも多少のトラウマは今でも残っている。先生の機嫌が気になってしまう。しかし機嫌がよくても安心できない。天候は急変する場合もあるから。
 そんな先生だが、患者の信頼は厚い。常にベストの治療をなさる。
 おそらく完璧主義者。ほんとうは、自分の歯を大事にしない者は罵倒したいところだろう。そんな気配は、先生の若いころには感じた。
 天性の歯科医である。しかし、彼のいうとおりに歯の手入れをすると、毎食後10分はその作業に費やさなければならない。はぁ〜
 次回は改善具合をチェックされる。4月までの執行猶予か……(/_;)
(photo:松浦鉄道たびら平戸口」にて)