ファブリースを見つけた日
なかば予想していたことだが、日本語講座として使っている小さな会議室は、まもなくある臭いが漂うようになった。
それは、いってみれば “ネパール臭” というものである。
かつて、ロイヤルネパール航空という名の、ネパール国営のエアラインが存在した。カトマンズと関空間に直行便が就航していたので重宝したものだ。
関空で、どこかの航空会社から払い下げられたボーイング757の機体に乗り込んだ瞬間、その “ネパール臭” におそわれたものだ。
誤解のないようにお断りするが、けっして揶揄したり蔑んだりするつもりはない。むしろ僕自身は、この臭いを好ましく感じている。
ついでに持論を披瀝すれば、僕は国民(または民族)固有の臭いは存在すると思っている。日本人だって、醤油臭いともいわれるではないか。人工的な香水の匂いよりよほど人間らしい、と思う。
しかし、うら若きネパールの乙女たちの臭いが「好ましい」などと発言すれば、フェチか変態あつかいされかねない。
そこのところもついでにお断りすれば、なにも乙女たちの臭いに反応しているわけではなく、僕はその “ネパール臭” というものに、これまで何度かどっぷり浸かったことがあるからそう思うのである。
だから、「好ましい」というより「懐かしい」といったほうがいいのかもしれない。
そういう彼女たちから得る、ネパールの最新情報というものもおもしろいが、なんだかそうやって毎日連中と接していると、さながらネパールにいるような錯覚をおぼえてしまうのである。
そうやって淡々と日は過ぎていっているが、数日前、夕方授業が終わって会議室から出ようとすると、部屋の隅に置かれているスチール棚のなかになにかボトルが入っているのが目についた。
取り出して見ると、それは「ファブリース」だった。掃除のおばさんの仕業だろうな……。思わず苦笑してしまった。(^_^;)
(photo:ネパール、バクタプルにて)