肉とアイスバーン
ネパール人実習生5名は、昼ご飯を社員食堂で食べることになっている。今日の午後いちに教室にもどると、そのうちの一人の女子が沈痛な面持ちで座っていた。
聞くと、今日は焼きそばを食べたのだが、知らずに肉を口にしてしまった、という。
彼女はベジタリアンのヒンドゥー教徒である。そのことがショックで落ち込んでいたのである。
肉を食べた、ということだけでも十分衝撃的だったのだが、食べたその肉も問題だった。つまり、牛肉ではなかったか、という心配である。
焼きそばならおそらく豚肉だろう、と僕はなぐさめた。じっさいのところはわからないが、これ以上のショックは少しかわいそうな気がした。
同僚の女子たちは、おもしろがって笑いの種にしていたが、彼女にしてみれば深刻な問題だったのだろう。
そんなエピソードも、当人には悪いが、忍耐を求められる長丁場の授業のなかでは、恰好な息抜きである。
しかし白状すれば、他人ごとではないショックなことが我が身にもあった。
毎朝、JRのローカル駅から降りて会社まで歩くのだが、数日前は通勤路がアイスバーンだった。
よちよち歩きでなんとか会社までたどりついた。しかし、門から構内に入ってすぐのところで、ものの見事に転んでしまった。
ほんとうにあっという間に、視界のなかに空がぐるりと回転し、腰と右腕をしたたか打ち付けた。ちょうどそばを車で通った社員のおばさんが、フフと笑って駐車場に向かっていった。……ような気がした。
派手に転んだことはショックだったが、さいわい打ち身だけですんだ。打ちどころによっては今ごろは……と思うと、とっさにうまく受身をしたのだな、と前向きに受け止めた。
しかしそのことを家人にいうと、転ぶということがだいたいトシの証拠である、と一蹴された。
まあ、そのとおりだろう。今朝も凍結していたが、寒さを感じないくらいに緊張して歩いたのだろうか、会社に着くと筋肉痛がした。(;_;)