町内会の誤算

 町内会デビューを果たしたのは、もうかれこれ20年ほど前だろうか。ちょうど40代にさしかかろうというときだったから、一般的にはおそいデビューといえるのかもしれない。
 しかし、そこには若干事情があるーー。
 我が地域は古い農村集落だったので、町内会と農家で構成する生産組合とがほぼ同じ組織だった。
 ほとんどの農家は子どもが跡を継ぎ、親子2世代3世代が同居していた。そのため、家督を持っている者が一家を代表して町内会に出て行くのだが、先代が健在ならどこの世帯でも、おおよそ僕のように中年近くになって跡目を継ぐのである。
 もっとも我が家は敷地内別棟別居の形態をとっていて、元々家督は親世代とは分けてあったので、僕の町内会への参加も近所の状況に合わせて、父親から禅譲されたにすぎなかった。
 僕は町内会というものに、経験豊かに歳月を積んだ大人のリーダーたちがいる、豊穣で平和なサークルを想像していた。
 しかしそれは、安い飲み放題ビールの味より淡い幻想だった、ということをすぐさま思い知らされた。
 そこには、田畑を苦労して維持してきた先輩世代の、筋金入り百姓がまだごろごろハバを利かせていて、新参若造の意見など一顧だにされなかった。
 その人の人生観が伝わってくるような、超然とした好々爺はひとりとして見あたらず、みな一様に目が血走り肩を怒らせ、何かに身構えているように思えた。
 それぞれ一国一城の主としての矜持を持って、そういう場に臨んでいたのかもしれないが、それにしてもあの緊張感は予想外であった。
 そんな連中の集まりだから、集会で決議したことでも、「わしゃ認めん!」といい放ち、平気で反抗する主たちが後を絶たなかった。
 民主主義もあったもんじゃない。ときには、ルール無用の無法地帯と化した。
 もちろん今は農村も崩壊し、新興の住人のほうが多数になったこともあり、町内会は民主的に運営されている。
 しかし我が町内会は、近隣でも突出した巨大な組織であり、慢性的に様々な問題をかかえている。
 そんな町内会にはあまり近づくまいと僕は逃げ回っていたのだが、ついに尻尾をつかまれてしまった。今年は役員である。
 どんどん大きくなる我が町。こんなくらいなら、もう少し前にやっておけばよかった。と、後悔しても後の祭りか……。(;。;)
(photo:カトマンズの犬。生きています)