北アルプス発見伝(1)

 山小屋といえば、まずい飯、湿った布団、狭いスペース、行列のできる臭いトイレ……と、イメージダウンになりそうなことは、たちどころにそれぐらい上げられる。
 しかし山小屋というのは、飛び込みでやって来る者を拒むことができず(拒めば生死にかかわる)、夏山シーズンや秋の連休になれば連日収容所のごとき様相となる。
 とくに近年は「山ブーム」といわれ、夏の平日でも混雑するようになった。「畳一畳に1人」のスペースさえ甘い夢と化し、二畳に3人、果ては食堂やトイレの前に至るまで仮眠所(仮眠しかとれない)となる。阿鼻叫喚である。
 僕も何回かそのような得難い経験をしたが、トシとともにそんな「得難い経験」は後進に譲ろう、と思うようになった。
 そうなると、百花繚乱の夏山はあきらめるか、あるいは、荒天めがけて入山する、というような奇矯な行動をとらないかぎり夏の花園にはたどりつけない。しかし、雨嵐の日が楽しくてしょうがない、などと告白すれば後ずさりされかねない。
 ならば超マイナーな山域はどうかと考えてみるが、そこはやはりよくできたもので、たとえ営業小屋があったとしても規模は小さく、結局混雑するのである。
 日帰りは、有効なひとつの手である。とはいえ、高い山や深い山にはとどかないから、いきおい行けるところが限られてくる。すぐまた暑い下界に下りなければいけないのもくやしい。
 そんなこんなで、夏山は好きだが、山小屋のあの地獄絵図を思い出しおののいているうちに、夏は行ってしまった。
 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。それは、「山ブーム」のせいだが、ほんとうに若者が山にもどってきたのだろうか。
 つい10年ほどまえまでは、山で見かけるのはジジババばかりだった。どちらかというと圧倒的にババが優勢だったがーー。
 まるで『楢山節考』ではないか、とみがまうばかりの惨状? だった。僕などはときどき、そんなジジババから、若いのに山へ来てえらいねぇ、などといわれたこともある。
 こちらも決して若くはなかったので苦笑ものだが、山の経験は彼らより多少積んできたと思う。
 そういうわけで今年は、盛夏と連休を避けて、9月に入ってようやく山旅に行ってきた。するとそこには、思いがけない発見があったのである。(つづく)(^-^)
(photo:ナナカマドの実。鏡平にて)