月夜のコンサートにひたる

 久しぶりにコンサートに行った。
 デュエットで演奏するのは、まもなく中年にさしかかろうとするルーマニア人男性と、若い日本人女性である。……この組み合わせ、どんなメロディをイメージするだろうか?
 じつは、2人が手にしている楽器は「尺八」。師弟関係である。
 でも、どっちが先生か、って?
 もちろん日本人の……といいたいところだが、男性が師であり、女性は弟子である。
 ルーマニア人R氏は尺八に魅せられ、来日以来、都山流の師のもとで尺八を習いはじめた。7年で准師範の免許を手に入れてからは、積極的に演奏活動を展開しているのである。
 今回は、時節柄「月見演奏会」と名打ち、ギターとのコラボである。
 会場は、現在は我が町の管理になっている、かつての豪商の邸宅である。邸内の日本庭園を背景に催された演奏会は、当日の多少の蒸し暑さを除けば、今の時期にぴったりのセッティングであった。
 日本人さえなじみがなくなってしまった尺八を、またどうしてルーマニア人が……という疑問はある。
 彼いわく、「内」の人ほどそのすばらしさに気づかない、という。日本人としていくらか反省させられる指摘だが、一方、母国ルーマニアでも同じだ、ともいう。
 まあ、そういうものなのかもしれない。
 彼の本業は、IT関係の技術者である。おそらく、「優秀な」という形容詞がつくと思う。
 そのかたわら芸術的センスは多方面に発揮され、尺八に限らず、ピアノ、絵画、語学(数カ国語に堪能)、文筆と、どの分野もシロウトはだしである。
 天は二物も三物もあたえているのである。……くやしい。しかも、気さくで謙虚とくれば、もう勝手にやってくれ、である。
 そんな彼が作曲した組曲竹取物語』は、日本人聴衆の心にスッと入りこんできた。
 ルーマニア人にしてやられた。……くやしい。(^-^)
(photo:浄土山からの下り)