炎天下のシロウト仕事

 「草刈りをお願いしたいんですが……」
 「いいですが、一ヶ月ほど待ってもらうことになりますよ」
 と、ごく平静に、シルバー人材センターの担当者がいった。
 ーーやっぱりな。草が繁茂するシーズンだからしかたがない。
 このあたりは水田地帯なので、農家は周辺の草むらに繁殖するカメムシを警戒している。やつらは、稲に実がつくころに水田に移動して、やわらかい実を食べてしまうのだ。
 そういう「害虫」の温床になるところを、この時期に排除しておかないとマズイのである。
 じつは、今年休耕しているうちの田が一枚、雑草の楽園と化しているのである。草が伸びないうちにトラクターで耕起すれば、こういう事態を招かなかったのだが、トラクターの修理や自分自身の忙しさで、ついに手遅れになってしまったのである。
 うちのガレージには、父親が使っていた、すでに錆びだらけになった電動草刈り機がある。おそらく10年以上前の機械なので、修理に出す気にもならなかった。
 とにかく、そろそろ刈らないと生産組合からお叱りをうける。しかし、250坪ほどの面積を刈るのはなかなか大変である。しかも現場は真夏の炎天下だ。最近は肉体労働とは縁遠い生活をおくっているから、熱中症になる自信はあるのだ。
 それで、ここはプロにまかせたほうが無難だな、という方向でシルバー人材センターに問い合わせたのだが……。
 まあ、期待はしていなかった。それに、人材センターの登録者がいくら経験豊富とはいえ、自分より年長者に過酷な労働をしてもらうのもやや気が引けてはいた。自分の力ではどうにもならない作業ならしかたがないがーー。
 というわけで、知り合いの造園業者から草刈り機を借りた。一応作業を依頼してみたが、「かんべんしてね」といわれた。どこも忙しいようだった。
 操作の指導は受けた。ハマればおもしろいかもしれない。たとえば、田植えより稲刈りのほうが達成感を感じる。“破壊行為” はやはり精神の解放につながるのか……なんて、危ないあぶない。
 比較的気温が低い日をえらんで、草刈り機を振り回した。ギラギラの日差しに、立ち上がる濃厚な草いきれ
 苦闘2時間半。完璧にやっつけた、と思って “破壊現場” あらためてながめてみた。そこには、見事に「五分刈り」された草地が広がっていた。
 水田は想像以上にデコボコしているので、そうなってしまうのである。
 汗がどっと噴き出し、倒れそうになった。それは、暑さのせいだけではなかった。(;_;)
(photo:雲南省麗江にて)