久しぶりの王家衛

 恥ずかしい話しだが、若いころは典型的な「アメリカ志向」の男だった。アメリカ映画が大好きで、先住民(インディアン)が悪者にされる西部劇もずいぶん見た。
 映画の話しですーー。
 単純で空っぽだった僕の頭は、ヨーロッパ映画のような深いものを理解できず、かといってアジアの映画は軽視するような、とてもおろかな男だった。
 ハリウッド映画よりすばらしいものがある、ということを知ったのは大人になってからだった。でも大人になってからも、アジア映画との出会いはまだ先だった。それは、地方の映画館ではなかなかかからない、という事情をあったかもしれない。
 王家衛ウォン・カーウァイ)を偶然知ったのは、映画『恋する惑星』(1994年/香港)だった。残念ながらロードショウで見たわけではなく、DVDになってからだった。
 以来、ファンになってしまった。映画は監督のものである。作風が気に入った監督は、ついつい追いかけてしまう。『天使の涙』(1995年)、『ブエノスアイレス』(1997年)、『花様年華』(2000年)、『2046』(2004年)等々……。
 どちらかというと寡作な映画作家だが、今年は『グランド・マスター』(2013年)が公開された。これが、カンフー映画だからおどろく。
 しかし、ただの武闘映画でないところが、王家衛である。いや、むしろ思ったほど武闘シーンは多くなく、葉問(トニー・レオン)と宮若梅(チャン・ツィイー)の交錯する人生を描いている。
 王家衛映画の楽しみのひとつは、その映像美である。今回も、雨を効果的に使った武闘シーン、光、スローモーションやクローズアップなど、これまで以上に凝っていてスタイリッシュである。
 王家衛カンフー映画も意外だったが、今回脚本もけっこう筋を追ったつくりになっているのもまた意外だった。これまでの作品が、そうではない、という意味では決してないが……。
 トシをとったから、というわけでもないだろうけど、今やアジア映画や第三世界の映画がおもしろく感じてしまう。
 あいかわらず、正義の味方はアメリカで、アメリカが世界や人類を救い、愛ですべてが解決するハリウッド映画も息抜きにたまにはいいけれどね。(^-^)
(photo:香港。2011年)