「富士山」というブランド

 日本語を学ぶ外国人留学生や研修生に、「日本で行きたいところは?」ときくと、ほとんどの人が「富士山」をあげる。
 海外でも有名なのはわかるし、その姿も美しいから、その答えは当然ともいえる。つい最近、世界文化遺産にも認定されることが決まったことだし、ますます知名度も上がるだろう。
 そして彼らの希望は、「登りたい!」。そう、さすが若者である。
 で、「先生は登ったことがありますか?」とつづく。
 「ない」と答えると、「え〜!?」といわれる。
 日本人ならだれでも柔道ができて、ときどきは着物を着て、当然富士山なんかも軽く登って頂上で万歳を叫んでいるはずだ。
 などと思っているわけでもないだろうが、それに近いイメージは持っているようである。とくに日本はせまいから、みんなちょこちょこっと行って登っているのではないか、と思われているのだろう。
 僕は山へ登るけれど、富士山にはあまり興味はないよ、というと当然「どうしてですか?」と聞かれる。
 でもそのへんは、初級者相手だとなかなか説明するのも難しいので、テキトーに答えてお茶を濁しておく。ほんとうは、一度くらい登ってもいい、という気持ちはある。しかし、夏のあの混雑ぶりを見ると腰が引けてしまうのだ。
 ほとんど森林限界を越えたところの登山になるので、草木を愛でる楽しみもなく、さりとて人が少ない寒いシーズンに登る気もないので、ついつい興味の対象外になるのである。
 人気が高いのも、やはり「日本一」というのがインパクトなんでしょう。2番じゃダメなんだろう。それでエベレストにも人々は大挙しておしかけるのだろう。
 たしかにあそこは、三浦雄一郎じゃなくても、登ってみたい気持ちはある。富士山はNGだけどエベレストならOKか? といわれそうだが、そりゃ〜やっぱそうでしょ。
 まあでもムリだろうな。かつてエベレストの、はるか手前の麓、タンボチェ(約3,900m)まで行ったことがあるが、頭痛に悩まされた記憶がある。高山病ですね。
 しかし、国内でできる高所訓練地は、やはり富士山か……。いやいや、僕の「目標」はエベレストじゃないんだった。(^_^;)
(photo:合戦絵図。岩村にて)