岩村の感想と感傷

 JR名古屋駅から中央本線で恵那まで行く。そこで単線の明知鉄道に乗り換える。1両編成のディーゼルカーは、山間をぬってゆっくりと高度を上げて走る。
 そのスピードとゆれが身体の波長の合うのかじつに心地よく、いつの間にか眠気をさそう。……と夢遊状態でいたら、30分くらいで岩村駅に到着した。
 駅周辺はちょうど城下町の端にあたり、ここから城に向かって古い商家町が、街道沿いにずっとつづいている。
 ゆるい上り坂で、しかも電柱が撤去され地中化されているので、すっきりした景観である。
 みやげ物屋が少なくまだ住民の生活臭が十分感じられるところは、キラキラした観光地を好む向きには物足りないかもしれないが、喧噪をきらう人々にはうってつけである。
 さて、城下町が途切れたあたりから城への登りとなる。登城する石畳の道は、針葉樹林の森のなかへと入っていく。
 樹林のなかは薄暗いが、それでも陽光の差す道脇には身体をあたためようと、ヘビやトカゲがときおり日光浴をしている。
 つづらおりの山道を20分くらい登ると天守に着いた。建物はすでになく、重厚な石垣群だけがしっかりと残っている。標高は720m近くあるが、周囲はやはり針葉樹林を中心とした森である。わずかに北東方面が開けていて少し展望があるだけである。
 うっすらと汗をかいた身体に風は心地よいが、「廃墟」に佇んでいながら心のざわめきを感じないのはなぜだろう。いにしえのうごめきや気配を感じないのはどうしてだろうか。
 開放感に欠けるロケーションのせいなのか。あるいは、軽佻浮薄な生活のあげく、感性が鈍磨してしまったからなのかーー。
 おそらく何かそういう自分のせいなのだろうが、わからないままにあまり長居することなくそそくさと山を下りた。
 城を目当てにやって来た岩村だったが、しかし旧城下町の町並みには感心した。
 不便をかこつ山間の町を後にしたような空き家もちらほら見かけたが、できればこのまま俗化されずに、と思うのはよそ者の感傷だろうけれど……。(O_O)
(photo:上は岩村城天守にて。下2葉は街にて)