スリッパの怪

 用事があって、とある自治体の公共施設に行った。滞在時間も多少長かったのだが、帰りぎわに下足箱で外履きに履き替えている人を見た。
 そのとき、はっと気がついた。この施設はスリッパ(内履き)着用だったのである。それを堂々と、僕は靴のまま施設内を歩きまわっていたのである。
 一瞬冷や汗が出たが、ここまでくればしかたがない。証拠隠滅をはかるしかない。僕は小走りに玄関から飛び出し、そそくさと駐車場に向かった。
 しかし、建物内ではかなりの人の目についていたはずなのに、誰にもなにもいわれなかった。なかには職員もいただろうに、奇怪なことである。
 利用者にあえて注意して逆上されても困るから、最近はチッと舌打ちはしても見て見ぬふりなのか。そういうふうに僕は見えたのだろうか。
 それも気になるところだが、たいがいはいつもマヌケ面をしているので、危ないやつだと思われたりはしないと思うがーー。しかし最近は豹変する中高年も多いから、舌打ちだけにしてあまりかかわらないように、というおふれが出ているのかもしれない。
 お断りしておくが、僕は公共のルールはまず守るほうである。ではなぜ今回「うっかり」してしまったのかーー。
 まず、外から施設内に入るとき、段差がなかったのである。いくつか事務スリッパが並べられていたが、あまり気にもとめなかった。下足箱も見えなかった。
 建物内のトイレにも行った。トイレ用のスリッパが並べられていたのを見て不思議な感じはしたが、あまり深く考えず靴のまま用を足した。
 そして最大の疑問点は、他の人がすべてスリッパをはいているのを、僕が気がつかなかった点である。
 こうなると「うっかり」どころではない。頭に「ぽっかり」穴があいていたのだろうか。
 しかし最近では、学校以外では内履き着用はめずらしくなってきた。以前は病院でも内履きスリッパ方式が多かった。そこではたいていスリッパを重ねて置いてあったので、不衛生きわまりなかった。病院へ行って病気をもらってきたのではないだろうか。
 病院にかぎったことではないが、いずれにしろ内履きスリッパ方式はあまり意味がないうえ不衛生である。(^^ゞ
(photo:新緑。フィンランドスオメンリンナ島にて)