ときには映画館通い
小津安二郎が、世界的に再評価されているようだ。黒澤明や溝口健二にくらべれば少し遅かったような気もするが、それは彼の作品が少し地味だったせいもあるのだろう。
しかしかくいう僕は、恥ずかしながら小津の作品を観たことがない。
じつは、映画『東京家族』(山田洋次/2013年)を観るまえにチェックしておきたかったのだがーー。
その『東京家族』は、小津の名作『東京物語』に山田洋次がオマージュした作品である。
寅さんシリーズでは、家族という枠からちょっとはみ出した主人公が、外から小石を投げ込んで静かな湖面に波風をたてる物語である。ーーでもあれは、まぎれもなく家族の映画だった。
とくべつな事件も起きない家族の日常を「物語」にするのはむずかしい。しかし、寅さんをはじめ数々の家族の物語をつくってきた山田洋次の視点はたしかである。
この『東京家族』からは、「家族とは何か」という、そういうしかつめらしいメッセージをくみ取ることはもちろんできるが、なにより現代のありふれた家族の悲哀を、過剰包装することなく描くことに成功している。
鼻の穴をふくらませて、肩で風を切って映画館を出る、というような映画ではないが、何か得をしたかもしれないな、と思うような映画だった。
さて、じつはもう一本、最近観た『砂漠でサーモン・フィッシング』(2012年/イギリス)がおもしろかった。
こちらも、家族というか、人生の悲哀がエスプリたっぷりにえがかれていてとても楽しめた。イエメンの砂漠に鮭を泳がせる、という話しのアイデアが、とりあえず興味をひく。
この映画の監督、ラッセ・ハルストレムというスウェーデン人がつくった、『ギルバート・グレイプ』(1993年/アメリカ)を観たことがある。ジョニー・デップとレオナルド・ディカプリオが、兄弟役で共演していた。
ちょっとクセのある、地味な家族の映画だったが、妙に印象に残った。彼の映画を観たのはそれっきりなので、監督としての手腕や好き嫌いを論評するネタはまったく不足している。
しかしこの作品は、登場人物のディテールがしっかりしていて、適度にメリハリがきいているので、とてもいい。
かんたんに、単に「いい」と表現してしまったが、ユーモアたっぷりの台詞のやり取りと相まって、とても心地いいのである。主人公のユアン・マクレガーは好きな役者のひとりだが、クリスティン・スコット・トーマスの怪演には笑えた。
予定調和的なエンディングは、もうひとひねりほしいところだったが、まあいいかと、ニヤリとしながら映画館を後にしたのである。(O_O)
(photo:鮭ではないが…。姫路にて)