冬の過ごし方

 「冬はスキーに行くのが楽しみです」と、先日インドネシア人の学習者がいった。
 スキー? あ、そうか。シーズンだな。と、記憶の底に埋もれてほこりをかぶっていた「スキー」という単語を、大急ぎで引っぱり出した。
 だから、「スキーねぇ……滑れるの?」と、思わず失礼なことをきいてしまった。
 なにしろインドネシア人である。ベトナム、タイなどアジアの暑い地域からやってくる人たちはたいがい冬が苦手で、会えば身をちぢめながら、「寒いですね」とあいさつする。
 ーー20代のころから、雪が降ると追い立てられるようにゲレンデに向かっていた。子どもができて家族全員で滑れるようになったときはずいぶんうれしかった。
 でも、子どもが成長しそれぞれの意思で行動するようになると、いつの間にかゲレンデから遠ざかってしまった。
 スキーは爽快でおもしろかった。しかし、重いスキー板やギプスのようなブーツ、ウエアや小物のあれやこれやを準備して出かけるのはけっこう大変だった。
 スキー場に着けば、駐車場の心配からリフト待ち、食堂の混雑等次々とめんどうくさいことが待っていた。
 そのころは高度成長期の余熱が残っていた時代だったのか、スキー場の経営難もさほど表だってはいなかった。ちょうどボーダーが台頭してきた時期でもあり、休日のスキー場はまだ活況だった。
 指向性でいえば、人工的なゲレンデより野山に出るほうが好きだったので、山スキーや歩くスキーにもときどき出かけていた。
 しかし、もともと総合的な雪山技術やスキー技術が未熟だったこともあり、安全圏をちょろちょろ滑りまわる程度だった。
 「スキーねぇ……大丈夫なの?」と、また失礼なことをきいてしまった。
 件の彼は、何が大丈夫なのかわからない、と思ったのか一瞬けげんな表情をして、「問題ないです」ときっぱりいった。
 ーー最近では圧倒的にボーダーが多いそうである。
 彼の話をきいて、久しぶりに滑ってみるか、と、少しこころが動いた。でも、物置に放置してあるスキー板をチューンナップするのも大変だし、ブーツはおそらくプラスティックが劣化していて、ヘタをすると滑走中に崩壊しかねない。
 したがって、ゲレンデに到達するまで、多大な時間と労力と費用が必要のようだ。
 まあ、ボーダーに遠慮しながら滑るというのも肩身がせまいし、今さらボーダーに転向すれば、病院と仲良くなることはまちがいないだろうしなぁ〜。(-。-;)
(photo:赤倉観光ホテルスキー場。約10年前)