森を歩く男は怪しいか

 若いころの会社員時代はだいたい年中忙しくて、貴重な休みの日は追い立てられるように、何かをしに出かけた。
 ある種強迫観念にも似た、余暇絶対有効活用的な考えに支配されていた。だからとにかくアウトドア派の僕は、天気がいい日はことさら落ち着かなかった。
 まあ、小心で貧乏性的な日常を送っていたのである。
 ところがその後遺症は意外にしつこく、昨日のように朝からすっきり晴れわたると、誰かに追い立てられているわけではないが、どうもそわそわするのである。
 こうなると、これは会社勤めであろうとなかろうと、自分のおろかな性格に起因している、ということになるのだろうか。
 前置きが長くなってしまった。つまり、昨日は天気がいいのでふらふらと出かけた、というそれだけのことなのである。
 金沢にある県民海浜公園は、別名「普正寺の森」(一部レジャー施設も含めて約47ha)と呼ばれている。あわてて変換すると「不祥事」が出てくるので注意しないといけない。「不祥事の森」では不安で近寄れない。
 さて、そこは渡り鳥や留鳥が多いことから、野鳥観察の森として有名である。バードウォッチャーの間でも、全国的に名が知られている。
 また、原生林的な豊かな景観は多用な植物の宝庫でもあり、ちがった角度からのこの森のファンも多いのではないかと思う。
 しかし、久しぶりに行ってみると、ずいぶん様変わりしていた。
 冬場は広葉樹が葉を落として野鳥を見つけやすくなるのだが、その樹木自体がずいぶん伐採されて、森がスカスカになっているのである。クロマツを中心に、高木が間引きされたような感じである。
 雑木林は手入れが必要なのはわかるが、ちょっとやりすぎだろう。高木をねぐらにする猛禽類などは大丈夫なのだろうか。
 県が管理しているのかもしれないが、この貴重な生態系をどうしたいのかまったく見えない。
 伐採する一方でスペースには植樹されているが、樹種(ほとんど松)や植樹地(場所、間隔)が、はたして専門家の指示があるのかどうか疑わしい。
 子ども用の大げさな遊具や人工池の貸しボートも、この森の性格をあいまいにしている。
 まあそんなんで、カメラと双眼鏡をさげて歩いていると、けっこう同じような目的の人と行き交う。なかには何かを採取しているような怪しげな男もいたが、考えてみるとこちらも十分怪しいかもしれない。(¨;)
(photo:野鳥も食べない実らしい)