イーストウッドにニヤリ

 『人生の特等席』という映画の邦題がしっくりくるかといえば、やや背中がモゾモゾしてしまうのである。それは、クリント・イーストウッドの映画だからかもしれない。
 今回は役者に徹し、監督をロバート・ロレンツという若手にまかせているが、制作を自身のプロダクションが手がけているからか、あれはまぎれもなくイーストウッドの映画だった。
 話しは、大リーグの年老いたスカウトマン(イーストウッド)の最後の仕事? にからんで展開する。身体の異変や一人娘との確執、葛藤。球団との関係や時代とのズレ。
 最近のイーストウッドの路線からすれば、役柄の性格付けはおおよそイメージできるというもの。
 前回主演した『グラントリノ』の、頑固でありながらも他人を決して無視しない老人像にも通じる。彼の演じるキャラは決して明るくはないが、不器用で皮肉っぽいところはある意味ユーモラスである。
 この映画の背景になっている、アメリカという国を象徴する大リーグという世界は、いかにもわかりやすくアメリカ人気質を垣間見せてくれてとてもおもしろい。
 大リーグファンなら思わずにんまりするようなやりとりも随所にみられるが、大リーグや野球のことをよく知らなくても、おそらく問題はない。
 物語はいくぶん予定調和的な作りではあるが、それは、よく知っているアメリカ映画のパターンとして、見る側に一定の安心感をもたらしている。
 イーストウッドといえば、暗く陰鬱な、怨嗟に満ちた西部劇でのミステリアスなアウトローや、『ダーティーハリー』シリーズでの直情径行、一匹狼的な人物像を連想する。
 あるいはまた、幾多の役柄を演じてきてはいるが、結局のところおおむねそういったイメージにつながっている。
 そういうところが、どこかほのぼのとした感のある「人生の特等席」というタイトルに似合っていない気がするのである。
 でもそれは僕の個人的な感慨であって、タイトルミスというわけではない。
 とにもかくにも、イーストウッドの新しい主演作が見られるだけでも、ひとつの幸せかもしれない。(^-^)
(photo:自然エネルギー基地。平戸にて)