パンツの穴と老化

 トシをとるのが楽しみだ、という人はそうはおるまい。おお、明日からオレも後期高齢者だ、うれしいぜ、というような感慨にひたる方は少なかろう。
 昨日、風呂場で転びそうになった。風呂、トイレで転ぶといよいよあぶない。危険、という意味ではなくて、人生が。
 さいわい脱衣場だったので大事に至らなかった。パンツ(下着ね)をはくときに、足の指が胴回りのゴムにひっかかった。すでに片足を入れていた状態だったので、バランスを崩しそうになったのである。
 そう、危うく転倒しそうになった。しかし、とっさに手を放しパンツを踏んづけたので、事なきを得た。
 人間は誰しも利き腕、利き足がある。右利き、左利き、というやつである。パンツを履くときは、無意識にどちらかきまった足から先に穴に通すはずである。
 ところが、骨格のバランスを保つためには、意識的にあえて反対の足から先に通すといい。ーーと以前、とある整体師の先生からおそわった。シャツに腕を通すときも同様。腕を組むときも同様である。
 で、ときどき思い出したように実行していた。しかし、なんだか最近よく足の指をひっかけるようになった。
 そういえば、道を歩いていて、わずかな段差につまずくことがふえた。そのつど、老化、というありがたくないことばが脳裏をよぎる。
 山歩きでもそうである。中高年の山での事故は、なんでもない登山道で転倒するケースが非常に多いらしい。
 まさか、バカな。と思いたいが、じつはタラリと汗が流れた。思い出した。今夏、岩場で足を滑らせたのである。登山靴のビブラムソールの劣化を疑っていたが、疑うべきは己の身体ーー。
 かように、身体能力維持はトシとの戦いである。楽をすれば奈落。
 しかし、楽しみがないでもない。恐いものがなくなっていくのである(ハズだ)。でもそうなると、ただの迷惑な暴走老人かもしれない。(¨;)
(photo:やっぱり踊るオバサンたち。泉州関帝廟前にて)