本物の品格

 かつてずいぶん前に、ちらりと見た記憶がある。そう、ちらりと、である。しかも、彼(もしくは彼女)は寝ていた。
 ーージャイアントパンダ(以下パンダ)である。中国語では「大熊猫」。なんだかほほえましくも、そのまんまではないか。ちなみに「小熊猫」は、レッサーパンダである。
 少年のころ、上野動物園へパンダを見に行った。パンダを見る目的で上京したのではなかったのは確かだが、東京へ来たついでだったのはまちがいない。
 しかし、あのころはパンダ舎の前で立ち止まることは許されず、一瞬パンダという物体を認めても、またたく間に視界から外れてしまったのである。
 あれはほんとうにカンカン(あるいはランラン)だったのだろうか。もしかしてダミーだったのではないか、と疑っている。
 「猫にまたたび」とよくいうが、僕にとって「猫はまたたび」である。犬派か猫派か、と問われれば、即座に猫と答える。つまり、大熊猫もまぎれもなく猫である。
 僕は、ハニートラップに引っかかる自信はあるが、パンダトラップやキャットトラップにもたぶん無力だろう。もっとも、金も地位も権力もないくたびれたオッサンに、そのようなワナが仕掛けられるとは思わないがーー。
 福建省省都、福州市にやってきた。中心部は名古屋に匹敵するような大都市である。さほど有名な観光地がないかわりに、泉州やアモイとはまたちがった、福建の北方文化が息づいている。
 市内の西湖公園の一角に、「熊猫世界」というパンダの飼育施設がある。ここには、現在4頭のジャイアントパンダがいる。
 やはり中国人にも、パンダは人気である。奇跡の動物、といっていいくらい無防備で、人を和ませ戦意喪失にさせる力を持っている。
 当然ながら、パンダ舎にいた連中は着ぐるみを脱ぐことはなかった。そう、あれは着ぐるみではなかったのである。(^o^)
(photo:福州のパンダ)