男のコケンを何とかした

 じつは、一通のメールを軽く受け流していた。
 中国へ向かう前に受け取っていたメールのことである。それは、以前泉州で日本語をおしえていた、現在L大学で日本語を学ぶ3年生からだった。
 内容は、ぜひ大学に寄ってください、というものだったが、そのときにみんなの前で少し話しをしてくれ、という要望付きだった。
 泉州へ再びやってきたのは鄭成功の件もあったが、かつての学生たちに再会するのもまたたのしみにしていたので、それはまったくやぶさかではなかった。
 ところが、泉州に着いた翌日、彼らの担当の中国人先生から電話があった。
 1時間ほど時間をとるから、2年生や1年生もまじえて、今の日本や日本の文化について、ぜひネイティブの日本人「先生」から話しをしてやってほしい、という依頼だった。
 ご事情はわかりました。みなさんに会いたいのでおじゃましますが、もう「先生」ではありませんので、挨拶程度でしたらよろこんで、と返してやんわりお断りした。
 ところが先方は、現在大学に日本人の先生は在籍しておらず、生きた教材として絶好の機会だから、という理由をさりげなく付け加えてこられた。
 ーー飛んで火に入る夏の虫、とはこういう場合にあてはまる。してやられた。軽いジャブに油断したら、見事にストレートを食らったようだ。
 断る適当な理由ならたちどころに並べられるが、それでは男のコカン、じゃなくてコケンにかかわる。もしかすると、日本人の面子にかかわるかもしれない。
 などと、日本人を代表するつもりはないが、とりあえずここは逃げるわけにはいくまい。と、コケンを保つことにした。やむをえまいよ。
 それでまあ、にわか仕立てのシナリオをもとに臨時講義をなんとか終えた。しかし、余談のほうにばかり時間を費し、先生の要求に応えられなかったような気がした。マヌケな「先生」である。
 賢明な学生たちは、もちろんコレ(マヌケ先生)が日本人代表だと思っていないだろうが、講義のあとは大人の対応をしてくれた。さすがだ。(__;)
(photo:鄭成功墓に通じる長い参道。南安市水頭鎮にて)