中国の秋はどんな秋?

 スポーツの秋、芸術の秋、食欲の秋ーー。
 日本語を学ぶ中国人研修生たちにきいた。
 「どんな秋?」「ん〜、スポーツはしないし、絵も描かないし……食欲の秋です」
 「そう。やっぱり夏とかは食欲ない?」「ん〜、ありますよ」
 「じゃあ、年中じゃない」「そうですね」
 どうも秋はとくべつではないらしい。
 でも、今年の中国の秋はとくべつである。共産党のトップ、指導部が入れ替わるのである。
 下馬評では、次期国家主席習近平、次期国務院総理(首相)には李克強、そして中央委員会政治局常務委員がほぼ全員入れ替わる。
 チャイナ・ウォッチャーでなければさして興味のある話題ではないだろうが、興味のあるなしにかかわらず、今や中国の政策が世界にあたえる影響は計り知れないのである。
 尖閣で、大人げなく意地を張っている場合ではない。指導部が入れ替わるときが、関係修復のひとつのチャンスだろう。
 と、一介の平民が気をもんでもしかたがないが、ここはひとつ読書の秋にふさわしく、本の話しをしようと思う。
 相変わらず次々と出版される「中国本」のなかにあって、今年は遠藤誉の2冊には感嘆させられた。
 まずは、今年3月に上梓された『チャイナ・ナインー中国を動かす9人の男たち』(遠藤誉 著/朝日新聞出版)。
 胡錦濤を筆頭とした、現政治局常務委員9人の現況と背景。そして、次期指導部への考察。それらがまた、共産党中枢部の歴史や人脈と相まって、権謀術数がうずまく。
 けっして堅い評論ではなく、登場する人物が生々しく表出してくる様は、膨大な資料をもとに構築した筆者の筆力だろう。
 もう一冊は、9月刊の『チャイナ・ジャッジー毛沢東になれなかった男』(遠藤誉 著/朝日新聞出版)。
 こちらは、稀代の野心家、元重慶市書記、薄煕来の半生と、そこにかかわった人たちを追ったドキュメントである。
 今年2月、薄煕来の右腕、王立軍が成都アメリカ領事館に逃げ込んだことから重慶の事件が公になる。薄煕来の妻、谷開来が手を染めた殺人事件なども明らかとなり、ついには巨悪たる薄煕来が失脚する。
 過去から現在の共産党指導部と密接なかかわりを持つ薄煕来とその周囲を、綿密な調査と豊富な資料で調べあげ、一幅の推理小説のように仕立てあげた筆者にはおどろく。
 「共産党中国」が誕生してまもなくの中国で生まれた筆者は、幾多の辛酸をなめた後、中国や日本の公的機関や大学ではたらいてきた。そんな人脈やネットワークを活用して、ときには危険をおかしてまで取りにいった情報は、考察に信頼性と信憑性をもたらしている。
 また、女性である谷開来に抱く筆者の心情は、同じ女性として何か感ずるところがあるのだろう。その点もおもしろい。
 いずれにしろ、筆者の人生のあるときにすれ違い、彼、薄煕来の所業を目のあたりにしてきた筆者の執念が感じられる一冊である。(O_O)
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