おかしい日本の物づくり

 別れは突然やってきた。はたらきものの彼(または彼女)は、バチンと音をたて、火花を散らして果てた。
 思えば、出会ってからやがて30年。あいつは黙々と熱を発し、ひらすらシワをのばす仕事をしてきた。まあ、休みの日のほうが多かったかもしれないがーー。
 アイロンが壊れた。いや、壊れたと思う。直せばなおるのかもしれない。でも、あれはきっと断末魔だった。確信している。だから、これでお別れすることにした。
 でも、飽きたわけでも嫌いになったわけでもない。大事にしてきたのだ。これまでの30年間、ぼろぼろになったコードを何回か交換した。最近は替えコードの販売もなく、部品を買ってきてコードをつくった。
 仕事中に倒れたので、新しい相棒をさがしに電器屋へ行った。量販店をはしごしたけれど、あいつに似たやつはいなかった。蒸気を発する、ゴテゴテした連中ばかりだった。なかには、コードレスなどというこしゃくなやつもいた。
 なんだかみんなすぐ故障しそうにみえた。熱を発するだけのシンプルなものはなかった。
 しかたがないので、アマゾンでちょちょいと検索した。あった。1機種。パナソニック製。えらい。やればできるじゃないか。
 30年付き合ったやつは、今は亡きサンヨー製だった。もしかしてサンヨーの血が流れているのかもしれない。
 近ごろはシンプルなものがなくなってしまった。ちまちました機能をつけて付加価値とする製品ばかりである。家電やクルマ、パソコン、携帯電話ーー。
 日本のお家芸かもしれないが、「木を見て森を見ず」である。いらない機能にはお金を払いたくない。
 だいたい老人には冷たい。でも、今やお金を持っているのは老人である。もっとお年寄りがよろこぶ商品を開発したほうがよさそうではないかな。
 ついでにいえば、駅の切符の券売機などは悪魔の機械だろう。慣れないとまちがいなくまごついてしまう。大都市圏になると、初心者はお手上げである。
 しかし、とりあえずアイロンは、くだらない付加価値攻勢からのがれることができた。これでまた30年……あそうか? 僕のほうが先にくたばりそうだわ。(;O;)
(photo:上海、朱家角にて)